或る貧困労働者の祈り
栗栖真理亜

濁った空の下
確かな職もなく
行き場の無くなった人々がカラカラに乾いた精神(ココロ)を持て余し
ただ、何の希望も見い出せずにその場限りの生活を送っている

彼らのたったひとつの持ち物はコインロッカーに残された小さな荷物
そう、使い古された歯ブラシや擦りきれた私服
それらを全部(すべて)僅かな空間に押し込めて
薄汚れた制服姿のままその日限りの割り当てられた仕事場へと出掛けてゆく

まるで暗い、暗い、穴蔵のような部屋で
ただひたすら、機械の部品をいじくり回す日々

あぁ、いつになったらこの生活から脱する事が出来るのだろう?
オレももう、四十五
マトモな職についてたら今頃は真っ白なシャツにパリッとした真新しい背広姿
青空の映るガラス張りのビルの中で
責任に似合うそれなりの権限を上司から与えられて
せわしなく働いていただろう
たとえ身体が疲れ切って棒のようになったとしても
温かな家庭の光と匂いが立ち込めるなか
女房・子供の優しい笑顔がオレを迎えてくれただろう

それなのにオレはたった今幾ばくか手渡されたばかりの給料を握り締め
ネットカフェの中に設えられた窮屈な寝城で痛む背中を丸めながら
決して明ける事のない侘しい夜を過ごしている

そんなオレを見て世間は白い眼付きをして嘲笑うだろう
お前が今まで何の努力もして来なかったからだと

しかし、オレだってこんな生活を決して望んでいたワケじゃない
大学を卒業して人並みに就職したくとも
会社はオレをすぐに虫けらのごとく追い出しソッポを向き続けてきた
オレをマトモに使ってやろうなんて気持ちはさらさらなかったのさ
そこでやっと辿り着いたのが今のこの有り様

それでもオレを生来の怠け者だと囃し立てるのかい?
世知辛い今の世の中で
無常極まる刹那を何とかもがき苦しみながら生きるオレを

それでは余りにも酷すぎる

お前はオレやオレと同じ眼に遭っている連中の立場に立った事があるだろうか?
真綿でジワジワと首を絞めるように見えない喪失感がオレを蝕んでゆく
大きな闇がオレをスッポリと被いオレを盲目にして、無気力にすらさせるんだ
灰色に汚れた分厚い壁がオレの前に立ちはだかるけれど
その正体すら解らず
ただ、抜け道のない迷路をさ迷う

オレ達の現状をもっとシッカリ瞳に焼き付けてくれ
何とはなしに少しだけ黒くこびり付いた表面だけ見て
机上の空論ばかり唱えてないできちんと伝えてくれ

もうオレのようなヤツを造り出して欲しくない
もう誰もオレのように、足掻いて欲しくないんだ

それだけが社会から食み出されてしまった
オレ達の唯一の願い
一筋の希望


自由詩 或る貧困労働者の祈り Copyright 栗栖真理亜 2025-01-22 14:12:16
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