蜻蛉
栗栖真理亜
水分を含んで少し重くなった衣類のカゴを片手で持ちながら
スリッパを履いて縁側に降りたつと
低木の緑の陰から一斉に黒いものが飛び出した
喪服を纏った蜻蛉だった
体にまとわりつきながら飛び去る何匹もの蜻蛉を手で追い払いながら
私は炎が燃え盛るのをみた
メタリックに蒼く光る尾に赤くオレンジ色に輝く火が
一匹また一匹とつけられてゆく
蜻蛉は黒い刺繍(レェス)のような羽を震わせ
急速に体全体に回る炎に悶えながら蛇行運転を繰り返して
しまいには力尽きて枯葉混じりの砂利の上へと堕ちる
草木は揺らぐことなくただ直立不動のまま煤塵と帰した蜻蛉を見守り
苛烈に明るく照らす八月の太陽は
よりいっそう無邪気に地に堕ちたものたちを輝かせていた