弾丸旅行の目的
おまる
弾丸旅行の目的は二つ。
一つは、京都文学フリマへの参加。
そしてもう一つ...
いや、むしろこの旅の真の目的とも言える“悲願”を果たすため、
同志らとともに、奈良のドープシティ、天理へと向かった。
奈良と言えば、悠久の時を刻む寺社や鹿が闊歩する風景や秘境、
柳田國男が活写した土着信仰などを思い浮かべるかもしれないが、
この地には知る人ぞ知る食の名店があまた隠れているのである。
これを食わねば年は明かせぬ……
そんなおもいを胸に、厳寒の冬空の下、我々は電車に揺られて天理を目指した。
県民だけでなく、全国から食通たちが足を運ぶこの店は、単なる飲食店ではなく、
街の文化そのものを体現していると言っても過言ではない。
目的地はただ一つ。
鰻の名店「みしまや」
柔らかく香ばしい鰻の蒲焼が、旅の疲れを忘れさせるほど絶品だという噂である。
どこか片瀬江ノ島駅のホームを思わせるつくりの駅舎で、
拍子木の乾いた音と、
名物「みかぐらうた」が響いていた。
古い街並みに溶け込むように、その歌声はやわらかくも力強く、
訪れる者たちを迎える祝詞のように感じられる。
ここがただの観光地ではなく、
日常と信仰が共存する特別な場所であることを物語っている。
冬の冷たい空気が肌を刺す中、
私たちは心なしか背筋を伸ばしながら駅を後にした。
店は当然のように長蛇の列。駐車場もほぼ満車で、
待っている人たちは、車のなかでポチポチとアイフォンをいじっていたりしていた。
天理市本通り商店街の喫茶店で暇をつぶすことにした。
それから小一時間くらいだろうか、シュッとした印象の、小柄な女将さんから電話がかかってくる。
頼んだのは全員「上丼」
香ばしい香りが運ばれてきた瞬間、
湯気とともに立ち上る甘辛いタレの香りに、長旅の疲れが一気にほどける。
ご飯の上に鎮座する鰻はんは
一口頬張ると、口いっぱいに広がる濃厚な旨味と香り、たまらない。
鰻は炭になる直前が一番うまい。
皮のパリッとした食感と中の柔らかな身が絶妙に調和し、
これ以上の幸福が果たしてあるのだろうかと思わせるほどだった。
黙々と食べる私たちの間に、言葉は要らなかった。
ただ、互いの箸の進む速さが、この一杯の素晴らしさを雄弁に物語っていた。
「これだよこれ、これを食べたかったんだ」と。
一人がつぶやくと、皆が笑顔で頷く。
それにしても、なんとうまい肝吸いだろう...
箸休めに梅肉風味のきゅうりの漬物もいい仕事してる。
湯気の立つ器を両手で包み込みながら一口啜ると、寒さで冷えた体がほっと温まる。
優しい出汁の香りとほのかな苦味がアクセントになり、
鰻のよさを引き立てつつも、全体をしっとりと包み込む。
店内はこぎれいで、落ち着いた雰囲気で、それでいて、
おたかくとまってないのもいい。
まさに天理の至宝
食事を終える頃には、旅の疲れも忘れるほど満ち足りた気分に包まれていました。
旅の締めくくりにふさわしい一皿を味わえたことに、心から感謝。