影響
栗栖真理亜
朝のドラマを見終わった途端母が涙目で
「住んでいる家を売り払って財産として三分割する」と言い出した
そのドラマの内容は主人公の学生時代の友人が封建的な家制度に縛られ
横暴な夫にも悩まされた挙句その夫亡き後、財産のことをどうするのかで揉め
夫の愛人や姑のことに加えて子どもたちの問題まで浮上したため
結局友人が相続人放棄して家を出ていく決断をしたことで
子ども三人が財産を三分割して協力し合うようになる話だった
思えば母も父に悩まされ私と弟を連れて実家に帰ったものの
その後、祖父母の介護において財産も家も全て叔父二人が
相続人放棄することを条件にその叔父二人に祖父母の面倒を押し付けられて
その間は仕事もできずに大変苦労したのだった
その上、弟は妻を病気で亡くし仕事も辞めてしまってからは東京で行方不明
私はというと職場でパラハラに遭い心身ともに体調を崩して休職中
母がドラマの人物に自分の境遇を重ね合わせても
仕方のないことなのかも知れない
しかし私の瞳からはなぜかしら涙が溢れこぼれ落ちてしまった
母は私がこの家に全面的に頼り切ろうと思っているからだと詰ったが
私は「そうじゃない」と否定した
今の家に寄りかかる気などつゆほどにもなく
母の言葉を聞いて訳もなく悲しくなってしまったからだ
少し経ってから考えてみると祖父母が何とか繋いできた家族が
バラバラになってしまうんだなという一抹の哀しみがあった
ただそれだけで涙が溢れてしまったのだ
些細なことかも知れない
新しい家庭を作ることができなかった私にとっては
大切なことだったのだと改めて思い知らされた
古い価値観に囚われ依存していると言われればそうかも知れない
ヤドカリが古い殻を抜け出すように私も相続を放棄して
古い家を出る決断をいま迫られている