守り
よるもと
心の底を見つめても、
暗い雪景色をこつこつと歩く旅人の
足音が胸のなかで響いて
コートを前に合わせては
あんまり寂しそうにするので
悲しみがうつるじゃないか
心の底を見つめても、
普段通りに活気ある駅ビルで
目の前を通り過ぎる私は現実、
今日もよく頑張った、
と思う影でひそかにどこか信じられない
嘘である
何もかも
あなたも
私も
雨
の日には、寒さを我慢して
新しくなった巨大な建築物の
なかに入ることで、このぐんとした
平たいたてものにいることで
私のからだも平たく伸ばされるのであり、
平凡な前髪ですら
大衆の一部となって喜べる
ひとの烙印を安心して押せる、
いまどきの人となり、
颯爽と駆け抜けては電車というものに乗って
懐かしい家へ帰る
その家ですら私の知ってる家ではない
何もかもない内で
今日も楽しかったと言えるのは
空がまだ青空と呼べる色をしているから
とばりが降りる
ミルクをこぼすように降りればもう
あなたはしあわせといえない
だれだって
寒さのうちに震え、電気を消した暗隅のへやで泣く
お菓子を食べながら
ただ虚しい時間をむさぼり食いちらかしている
(嘘よ。
くるくるした黒い糸をほどくのに精一杯で、
あたしにはとてもそんな暇がなかった。
糸が動くから捕まえどころがなくてそれを追うのにもう、精一杯。
嘘よ。
ひどい人たちはもうたくさん。)
悲しくなんてならない
もう一本の柱みたいにこの世界に立つ今となっては
夜はもう悲しむ時間ではなく、
一つ一つ、こつこつ胸を叩いていく作業を
している
どこかで小さいわたしが泣く
それを旅人がみつけ
きっと共生していく
なにも
奥底にないから
藍色に
雪がしんしんと降る
ヒールで床を打っても
その響き方ではなく
しんと静かに
責めもしない
守りもしない
響き方をする