call
塔野夏子
街に雨が降っている
いくつかの記憶が断片のまま転がっている
僕は君に呼びかける
かえってくるものが自分の谺にすぎないと
知っていても
それは君がいなければ
生まれなかった響きだから
鐘の音が時を忘れている
虹色のボールが坂を転がり落ちてゆく
影色の瞳が虚空を見つめている
優雅な混沌の中で詩がまどろんでいる
幾千もの傘が広場に渦巻く
窓が退屈を切り抜いている
信号待ちで少年が踊っている
プラットフォームを列車ではないものが通過する
午後がゆっくりと崩壊してゆく
夢みていたのは何
透明な菫の咲く処
果敢なさが果敢ないままに
いつまでもたなびいている処
僕は君に呼びかける
かえってくるものが自分の谺にすぎないと
知っていても
それは君がいなければ
生まれなかった響きだから