call
塔野夏子

街に雨が降っている
いくつかの記憶が断片のまま転がっている
  僕は君に呼びかける
  かえってくるものが自分の谺にすぎないと
  知っていても
  それは君がいなければ
  生まれなかった響きだから

鐘の音が時を忘れている
虹色のボールが坂を転がり落ちてゆく
影色の瞳が虚空を見つめている

優雅な混沌の中で詩がまどろんでいる
幾千もの傘が広場に渦巻く
窓が退屈を切り抜いている

信号待ちで少年が踊っている
プラットフォームを列車ではないものが通過する
午後がゆっくりと崩壊してゆく

  夢みていたのは何
  透明な菫の咲く処
  果敢はかなさが果敢ないままに
  いつまでもたなびいている処

  僕は君に呼びかける
  かえってくるものが自分の谺にすぎないと
  知っていても
  それは君がいなければ
  生まれなかった響きだから



自由詩 call Copyright 塔野夏子 2025-01-17 10:22:07
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