ヴァイオリン
りつ

奏者は愛おしそうに
艶やかなボディをひと撫でし
ため息をついて弓を構えた

最初は軽く軽く
羽根のように優しく奏でる
ヴァイオリンは直ぐに応え
小刻みな小さな音で震え求めた

ヴァイオリンの反応を聴き
奏者は自信を持って
ヴァイオリンを翻弄し始める
低く深い音で満たしたかと思えば
高く浅い音で弦を弾き軋らせる

演奏は次第にクライマックスへと重なりあってゆく

ヴァイオリンが弓なりに弦を反らし音を求めた時
奏者は一呼吸おいてヴァイオリンを焦らし
深々と
どこまでも豊かに弓をしっかり放った

ああ、何と言う歓喜の音色であろうか
奏者とヴァイオリンがひとつになり
高らかにいのちの歌を共に共に
遥かな一瞬の永遠のうた

満ち足りた沈黙

奏者は思い出したように我に返り
再びヴァイオリンを愛おしそうに撫で
ゆっくりと微笑んだ


        日本web詩人会 初出


自由詩 ヴァイオリン Copyright りつ 2025-01-17 02:45:51
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