偶像 -スタアたち-
川崎都市狼 Toshiro Kawasaki

ロバート・ブライとベティ・ペイジに

性を一單位として
クールに処理しやうとするならば
その前に
本当の男らしさ・女らしさについて
何らかのアプローチをせねばなるまい

例へば
今思ふと噓のやうだが
リンゴ- リンゴ・スタア
彼はまさしく「性的」に、若い女性らの心にあつた
絶大なる鼻 リヴァプール訛り とぼけた歌 小男
語るに落ちる神々しい名
(本名はリチャード・スターキイ 貧しいパン焼き職人の倅だ)

ビートルズ映画の先の二本で
彼はすつかりエキゾティックな
異邦人らしさを露はにしたのだ
そして強烈なバックビート
彼が叩き出したビートは
時代を變へた

僕はもう一人
のポップスタアを考慮しておくべきだらう
ジミ・ヘンドリクス
屈強で 巨大な 薄氣味の惡い
ゆゑにセクシーな黑ん坊 そんな幻想を駆逐したのは
彼が死をもつて
抗議した -そのナイーヴな素晴らしい藝術と共に
からだ

ジミのシアトル
イチロー氏のシアトル
白人たちがインディアンから幾ばくかの
ビーズ飾りで割譲して貰つた
小綺麗な港町
町裏の劣情

時代のアイドル達
嗚呼、玩具オモチヤのチャチャチャ

野坂昭如氏の下駄
胸毛
サングラス
ロウ・エンド・ロウ
マリリン・モンロー
ノーリターン
我々日本人に相應しい
文化的英雄
所謂黑眼鏡

彼はジミヘンのやうに
傑出した藝術を殘したが
どれだけ本氣で扱はれた、と云ふのだ
畏れ多くも直木賞作家なのだぞ
彼、諸先輩がた とりわけ
三島由紀夫にとつては「ブルーフィルム」屋
登場の仕方は
ぢはり センセーショナル過ぎた

焼跡闇市
我々が下敷きとした景色
安吾が生きてゐた
蚊帳の下

そこにご飯と味噌漬けがある
何もないがお食べなさい
どでかい體躯はまた優しかつた
特に弱い者には
戦後文學の原風景
カルモチン
小さな山羊
自ら
弱い人間である事實剥き出しに生きた
知の巨人

僕たちはさう云つた窓から
現代を眺める 男たちよ 彼らに抱かれた女たちよ!
ケータイから見た
世界とは明らかに違ふだらう?

僕はジョージ・マイケルの
[Faith]を聴いてゐた-
彼は英語圏に身を投じたギリシア人の末裔
男女の垣根を超越した

斯くして
單一性の幻想に帰結
危険な誘イザナひだ

〈虎落笛サヨナラがはり眞似てみる 涙次〉

#詩


自由詩 偶像 -スタアたち- Copyright 川崎都市狼 Toshiro Kawasaki 2025-01-15 10:13:46
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