人格と世界観6・ゲーテの世界観と神秘主義(下)
ひだかたけし

 ある種の神秘家は曖昧な感情世界に沈潜し、
ゲーテは明確な理念世界に沈潜する。
一面的な神秘家は明確な理念を軽蔑する。
明確なものは表面的だと思っている。
生きた理念界に沈潜する人が何をどう感じているのか、何も分かっていない。
そういう神秘家が理念界へ赴くと、その冷気に凍りついてしまう。
外から熱を自分に流してくれる世界内容を求めているからである。
しかし、熱を流し込んでくれるような世界内容では、世界は解明されない。
そういう世界内容は、
主観的な刺激と混乱したイメージから成り立っているだけなのだから。
理念界の冷気について語る人は、理念を思考するだけで、体験していないのだ。
 理念界の真の生命を感じ取れる人は、比類のない熱に包まれた世界本質を、
外にではなく、みずからの内に感じとる。
自分の内に世界の秘密があり、その秘密の火が自分の中で燃え上がるのを感じる。
ゲーテが「ファウスト」に、次の言葉を語らせたときの憧れをどう静めたらいいのか、
もはや此処に明白な人格の世界観が浮き彫りになる。

  無限の自然よ、どこにいるのか。
  乳房よ、どこにあるのか。すべての生命の根源よ、
  天も地もお前に頼っている。
  しなびた胸はお前を求めている。


散文(批評随筆小説等) 人格と世界観6・ゲーテの世界観と神秘主義(下) Copyright ひだかたけし 2025-01-13 20:56:14
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