月酔歌
ただのみきや

かわいた月は夕間暮れ
水気をとりもどす
井戸底に 灯る骨
白く鳴り
つめたく響く 唇は
もう血肉を夢見ない

かつては跳ねる想い
着物を乱し帯を解き
胚芽から
鋸状の風が渦を巻いて 

いつの間にかのびすぎた
爪を切る
白く細い
月のよう
詠ったのは誰だったか
雪がやみ
視界がひらけ
遠くの高い並木の辺り
おびえる鳩のよう
はたはた落ちて
像を得ず
去る鳥なく足痕もなく
白紙を染める白は悲しい

こころの中のピストルは
他者ではなく自分に向けられる
大勢埋まっている
わたしは墓地だ
いのちを天秤に乗せ
釣り合うよう
ちびりちびり酒を注ぎながら

すべて美と哀れは
この空洞を投影するためのもの
ひとつの女のかたち
世界は舞台背景にすぎず
わたしは現実を生きる虚構
侵食されたもの

月は貝のよう 時の波間に
満面の死 花こぼし
貝は月を孕み
静かにねじれ 狂う

君がうらやましい
化石のように未来を旅するひとよ
いやいや君らじゃない
こんなもの読むことのない君のことだ


    

                   (2015年1月12日)









自由詩 月酔歌 Copyright ただのみきや 2025-01-12 14:48:33
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