苦しみと再生
りつ

貴女は私と同じことをしている


私は命を盾に
夫を何度も何度も脅した
仕舞いに、夫は疲れ果て、絶望した

それでも尚、愛して欲しいと望むのは
砂漠で歩き疲れた私を
ずっと背負って倒れ込み
それを知りつつ
カラカラに干からびた夫へ

「私、喉が渇いたから、井戸を掘って水をちょうだい」

と命令するのと同じだ

「水がなければ、私、死ぬわよ」

どことなく嬉しそうに
私は言った

(いっそ死んでくれたら…)

歪んだ顔が、絶望をありありと伝えていた


(ヤバい!このままでは捨てられる)

そう察した私は
夫から捨てられない為に
入院することにした

夫は一つだけ、私に頼んだ
「俺が釣りに行ってる時は、
こっちからちゃんと電話するから、
その間だけは電話しないでくれるか?」

そうすれば捨てられないだろうと
私は頷いた


夫は約束を守った
定時にキチンキチンと電話が入る
それでも足りなかった私は
夫にしょっちゅう電話した
その度に、夫はテレビ電話に応じた


ああ、夫が何と明るい顔になっていたことか!

私が側にいる時の、生気のない顔とは、
全く違っていた

私は悟り、そして怒った

私を捨てようなんて、
そんなん絶対絶対赦さない!

けれども、入院中だ
薬もしっかりと効いているし
第一、自殺できる場所も方法もない

友達は漂白剤を飲んで内臓が焼けただれ大手術をした
しかも死ねない
痛いだけ。苦しいだけ。
そんな分の悪い博打を打つつもりは無かった

だから私は、
自分を憐れみながら空ばかり見ていた


ようやく退院し
また夫と一緒に暮らせると思ったら
今度は夫が入院するという

それほど一緒にいたくないのかと歯噛みしたが
反対は出来なかった


ひとりの生活が始まった
まぁ良い。夫が入院してる限り私は安全だ
入院というこれ以上ない束縛に満足し
私はひとりの生活を楽しみ始めた

何もかも気儘にやれる
夫がいない生活は
思ったよりもずっとずっと気楽だった


こうして私たちは
お互いがお互いに
自分自身を再生し始め

現在は良き友達であり、良き理解者として、とても仲良しだ。



自由詩 苦しみと再生 Copyright りつ 2025-01-09 00:10:13
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