遭難ー東京砂漠を思い出すー
りつ
今日もあなたに会えた
様子を見にきてくれて
ありがとう
とても嬉しかった
(まさか、気づかないと思ってましたか?)
夜はハードなアスレチックで遭難しそうになる
知らない窓の灯りが
ただ一つの目印
それを頼りにひたすら歩く
やっと知ってる路に出たとき、
心底ホッとした
迷って遭難しそうになって、
受験の為、初めて東京に来た時のことが
フラッシュバックした
飛行機で羽田に着き浜松町駅まで来たのだが
浜松町駅でどっちの階段から降りて良いのか分からない
私は山手線内回りと外回りが
どっちかの階段を降りることで決まると思っていたのだ
浜松町駅と書いた看板の前をウロウロすること30分
密かに「どうしたんですか?」と声をかけてもらえることを期待したのだが
そんなことはあるはずもなく
東京のひとは冷たいなぁと内心ため息をつく
意を決して一つの階段から降りてみる
ホームが一つ、線路が二つ
あー、どっちの階段から降りても同じだったと苦笑いする
しかも乗った山手線は行きたい方向と逆回り
「もういいや、ぐるっと一周するんだから」と諦める
40年ほど前の携帯電話なんかない頃のことだ
当然GPSも使えない
青山の公務員宿舎に着いた時は良かったと思った
(現在より遥かにクールだ)
東京では2回、遭難しかけた
1度目
新宿ワシントンホテルに友達が泊まってて
その友達を訪ねようとした時
(昔は新宿にワシントンホテルがあったんです)
新宿駅から外に出ると
先日ワシントンホテルまで連れて行ってもらった路とは、
かけはなれた光景が広がっている
戸惑いながら
どこかに見知った光景はないものかと
新宿駅をぐるぐる廻ること二時間
迷っているようにも、
困っているようにもみえなかったのだろう
ぐるぐる歩いている途中で、
おばあさんに道を訪ねられる
「…私も迷子なんです」と答えると
迷子同士で妙な連帯感が生まれ、
少し立ち話をして別れた
元気が出た
結局、どうやってか
新宿駅の地下二階から行くことを知り
見知った路を歩いて、
無事にワシントンホテルに辿り着いた
と、これはまだ序の口
本気でこのまま遭難して死ぬかも…と心底思う迷子っぷりが待っていた
田町の慶應義塾大学に受験会場の下見に行った帰り
「たった1駅だし、お金勿体無いし歩こう」
と思ったのが運の尽き
(自分が生粋の方向音痴だと自覚するのはまだまだ先の話)
てくてくてくてく、来た路を忘れたので、
こっちの方向だろうと予想した路を歩き始める
「おかしいな…」と気づいたのは30分くらいたってからだ
1駅なのだから、とっくに着いているはず。
この時点で誰かに聴けば良かったのだが、
田舎者のコンプレックスで、絶対に口をききたくなかった
だから、どんどんどんどん歩くしかない
歩くほどに歩くほどに
駅には辿り着かずおかしな方へ進んで行く
辿りついたのは閑静な住宅街
綺麗な家が並び
昼間なのに人っ子ひとり歩いてない
車も走ってない
人気もない
だんだんゾッとしてきて
頭の中をエンドレスで「東京砂漠」が流れ始め
内心焦りまくり
このままでは遭難して死ぬと本気で思った
(顔には全く出てない)
半ば絶望して歩いていると
いきなりポカっと車通りの多い車道に出た
呆然とする
道路標識があった
白輪台?聞いたことがある
お金持ちの住宅街だ
品川駅?
駅が見つかった!
こんな時はへなへなと座り込み、
泣いてもよさそうなもんだが
やっぱり強情で
あくまでも平静な顔は崩さない
品川駅に辿り着いた
受験を待つ間に
コラソン・アキノ大統領が暗殺されたと報道された日は大雪だった
夜、パンを買いに出掛けた私は
車道にできた雪の轍に脚をとられ
捻挫してしまった
東京には良い思い出がない
散々な目にあった
だけど、それが今となっては良い思い出だ
令和7年1月4日 記す