羊雲を仰いで
服部 剛

自らの愚かな手で
目の前をさえぎる沼を
つくり出してしまった時は
でくのぼうとなって立ち止まり
かけがえなき友の背後から吹き抜ける
風の言葉に耳を澄まそう

私は木になりたかった
幾人かの疲れた人々が
幹を背もたれに座り
夏の暑さを逃れて木陰に涼むような

私は羊飼いになりたかった
牧場の丘の上に沈む
暖かい夕陽を背に
迷える羊等と共に
やがて夜空に瞬くひとつの星をたよりに
黙して群れ歩むような

私は今
自らの胸に宿る世のしがらみや
濁った瞳をくらませる欲望の熱から逃れ
旅先の丘の上で
五月の風にきらめき唄う木ノ葉の下
ゆっくりと腰を下ろし
ただ いこいたい

傍らにはひとりの友がいて
今まで織り成されてきた互いの物語を
心おきなくが暮れるまで語らいたい

木陰から仰ぐ青空に
羊雲が泳ぐのを眺めながら





自由詩 羊雲を仰いで Copyright 服部 剛 2005-05-25 19:10:14
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