おみくじの話
ちぇりこ。

初詣が済んだのでおみくじを引く
小さな地域の小さな氏神さまが静かに祀られている小さな神社は
この日ばかりは少しの間だけ人混みで溢れている
ぼくはおみくじを引く順番の列に並ぶ
ぼくの並ぶ列はどうやら人専用のおみくじらしい
右横の列は猫専用そのまた横は鳥類専用
よく見ると多種多様の生き物ごとにおみくじが用意されていて
それぞれ長い列が出来ている
魚類、両生類、昆虫類、扁形動物門三岐腸目
小さな地域の小さな氏神さまとはいえ流石に神さまの端くれ
あらゆる生きとし生けるものの今年の運勢を見ることができるのか
と、感心してしまう
左横の列に並ぶエビと目が合ったエビは赤い顔をしている
きっと飲みすぎたお酒がまだ抜けていないのか
あるいは熱いお風呂に長時間浸かっていたため
湯あたりを起こしてしまったのか
ぼくは軽く会釈をして、甲殻類でも今年の運勢は気になるんですね
と話しかける、すると
(いや、おみくじは世界を救うと聞いて)
救わないんですけど
(アレルギー持ちの方には近付かないよう)
(細心の注意を払って腰を折って生きてきました)
そんなに気をつかって疲れませんか?
(甲殻類ですから)
いや、答えになってませんけど
エビと会話をしていると、とあるおみくじが目に付いた
空専用、空も今年の運勢が気になるのか!と
気になったぼくは人専用の列を離れて空専用の列の最後尾に加わる
さすがに並んでる人は少ない(そもそも人なのか?)
ぼくの順番はすぐにやってきた、百円玉を投入してレバーを引く
ガチャコン、と音がして、小さく折りたたまれたおみくじが排出された
丁寧に折り畳まれているそれを広げてみると
何も書かれていなかった
いや、人には認識出来ない空の言語で記されているのだろう
表も裏も白紙なのだ
少し落胆して境内の細い枝におみくじを結びつけると
晴れているのに雨粒が落ちてきた
よく晴れたお正月の空は
悲しいほど近くて寂しいほど青い
いつかぼくも、空になる日が来るとしたら
きっとおみくじも読めるようになるのかも知れない
どこからかお雑煮の匂いもしてくるし
まあ、そんなもんだ


自由詩 おみくじの話 Copyright ちぇりこ。 2025-01-04 18:48:36
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