年神さまのこと/花の営み
ちぇりこ。

大晦日の夜から元旦にかけて
年神さまが誰も知らない山から降りてきて
健やかな子どもの足裏に
ひと粒の種を植えてゆく
今年はせいちゃんの番かもしれんねえ
そう言って祖母は細い目をいっそう細くして
しわくちゃのお餅みたいな顔になった
大人たちは年神さまを迎える準備に余念が無い
大きな声でお酒やらご馳走やらが飛び交って
色んな匂いが混ざって
古い家屋はぼくの知らない家屋のようになる
子どもは年神さまを見ることができないので
布団を頭から被り目をつぶり
寝たふりをするしかなかった
今年の年神さまはたいそうお酒が好きだったね
今年の年神さまはえらい無口だったね
大人たちは口々に年神さまの印象を語り合う
ぼくは布団を頭から被り目をつぶり
その姿を想像するしか無かった
それぞれの家にやってきて
それぞれの年神さまの植えた種が
やがてそれぞれの体内で発芽して
頭のつむじに花を咲かせる
それぞれの色やかたちで開花した花を
つむじから咲かせたぼくたちは
花の営みをする花の町をかたちづくる
そうしてぼくも年神さまを迎える準備をするようになる
その年ぼくの家に来た年神さまは
しわくちゃのお餅みたいな顔をしていた
やがてつむじの花は実を結び枯れてゆき種子を残す頃には
ぼくは種をひと粒握り
誰も知らない山の頂へ向かうことだろう
そして大晦日の晩から元旦にかけて
健やかな子どもの足裏へと向かうんだ


自由詩 年神さまのこと/花の営み Copyright ちぇりこ。 2025-01-03 10:55:24
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