笑っておやすみ
健
毎日が毎日カウンターにやってきて
毎日を注文して少し疲れた顔で笑う
私はグラスにゆっくりと毎日を注ぎ
愛想よく笑い返して明日のことを考えている
+
OPEN
CLOSE
どちらを掲げていようがおかまいなしに
客はどこからともなく入って来て
それぞれがそれぞれと話を繰り広げる
彼らは何も注文しないし
私から声をかけることもない
それがお互いのためだと知っているからだ
私は毎日の相手をしながら
毎日以外の話に聞き耳を立てる
笑顔を作るための材料が少しでもほしい
けれど
得られるものは雑音ばかりで
結局毎日を注ぐしかなくなってしまう
+
気が付けば誰もいなくなって
仕方なく私は空になったグラスを洗う
丁寧に汚れをこそぎ落としながら
来ない誰かのことを思う
今日がまだ今日であるうちに
話したいことがたくさんあるのに
出てくる声は歌にしかならない
眠れない日々を
眠らせる歌だ
少しだけ上手になったと思う
それだけはほめてやりたい
私は照明を落とす
明日のために少しだけ笑って
おやすみを言う