冬のにおい
山人
雪明かりの中、ひさしぶりに散歩に出る
獣たちの足跡が点在し、ときどき走っては敵に怯えるように急ぎ足になったり、少ないながらもその痕跡が塗されていた
時折、小声で独り言で事を説明する私は酷く滑稽でありながら、そのやわらかな夜明け前の寝床のような空間を楽しんでいたのかもしれない
そういえば、今読んでいる小説はとても娯楽小説とは呼べず、若い作者のくせに粘質でまどろっこしい著名な作家を模倣しているかのような筆致で苛つくのだが、読んでいるうちに、苔の表面の様な言葉のふくよかさも感じてしまっても居たのだった
闇に向かって、今年も終わるな、と言う
そのことが一つの儀式のようであったし、来年はどうなるかは分からないという鋭利な刃物を突き付けられているという気分にもなり、いずれにしても所詮そこら辺の名もない草のような生き様しかできないのだな、と達観するのだ
昔は冬の、雪の、においを鋭敏に感じることができた気がする
でも今はそんなに感じることはなくなった気がする
耳の外側で香り立つ、冬の匂い
外は今いちばん夜が長いのだった