【閃篇】夢の日常、夢の断片。謎単語篇【マイクロノベル】
佐々宝砂
1.カイニイータ
台所の食器棚に長いことしまってある白い粉薬はカイニイータという名の毒薬だと知った。カイニイータを持って鶴のくる村にゆく。村の広場や庭には白い大皿が何枚も何枚も並べられている。私はポケットの中のカイニイータをぎゅっと握って「私はこれを使えるけど使わない」と思った。
2.ソライ
「ソライ」の村に住んでいる。ホームステイにきた女の子を案内していると、青かった空が突然褐色に染まり、渦を巻く。渦の中心は暗くて見えない。でも何かいると思う。空が異なると書いてソライだけど、空に居るじゃないのかなあと思う。
3.イオエリ症
イオエリ症の女の人がいて男を見かけると怯えて叫ぶというので監禁されている。お彼岸の菊の形をしたお菓子を差し入れて話をする。実際には叫んだりしないらしい。ひどい目にあったとき叫んだことがあるだけらしい。病気じゃないじゃん。竹の容器のお弁当も差し入れた。
4.マグノミリア
工場の小さな図書室にあるマグノミリアというタイトルのハードカバー本。原色牧野植物圖鑑に似た装丁で分厚い。手に取ろうとすると工場の同僚が「それは私が頼んで買ってもらったので先に読ませて」と言った。振り向いて同僚を見ると昔出会ったときのように若い。
5.蹴上がり観音
人がたくさんいるイベント会場のようなところにきた。みんな口々に蹴上がり観音を見に行くと言う。私も行こうと会場の奥の石段を登る。石窟に続いていた。LEDの灯りがいくつもあるのでとても明るい。お供えがあちこちで山をなす。蹴上がり観音は?と探すもただお供えの山ばかりである。
6.ウォザップスイッテエ
怪我人がたくさんいる避難所で誰かがウォザップスイッテエと言った。すると一人が快癒したので他の人もウォザップスイッテエと唱えるとどんどん治る。私も唱えてみたら疲れがとれた気がした。最後はみんなでウォザップスイッテエウォザップスイッテエと合掌礼拝した。
7.シロジバクアリ
シロジバクアリを飼育することになり餌を買いに行ったら、飼育にあたって講習が必要と言われ、二泊三日の講習に出かけた。受付で鞄の大きさを訝しがられ、仕方なく中を見せた。実は鞄の中身のほとんどが枕。枕が替わると眠れないんですと言ったら笑われた。
8.グインタケ
見たことのあるような森に知らない人二人とキノコ採りにきている。モミの森ならアカモミタケが好きだと思う私の足元にアカモミタケ、わーいと採ろうとしたらろくろ首みたいにぐいーんと伸びた。同行の二人が「あれはグインタケだ、食べられないよ」といった。残念。
9.赤虫様とイ様
赤虫様を祀る山のあちこちにカラの魔石がばらまかれた。私達はそれを拾ってかわりに満ちた魔石を置いてゆく。兄が赤虫様に乗って村まで行った。赤虫様は電車十両ぶんくらいある。目撃者は多いほうがいい。イ様が空を飛んでいる。あれは隣村の神様だ。
10.チゲタゲート
チゲタゲートと呼ばれる生き物がうちの近所の山に住んでいて、私たちはチゲタゲートの糞を拾って売って暮らしている。チゲタゲートは鉄を食いガソリンを飲み鉄を排泄する。私も鉄を食ってガソリンを飲んだらどうなるかしらとガソリンを飲もうとしたがどうしても無理だった。