coincidentia oppositorum
ホロウ・シカエルボク


散らかったイメージを一瞬の構成の中に誘い、ひとつの体系を生み出す、その時の真実、その時のリアル―俺は思考がまだ信号の段階である時にキャッチして変換する、脳味噌はその作業をするには遅過ぎる、それは神経の反応のようなものだ、俺の神経系統はどうやら、言葉と直結しているらしい、医学や化学を信じている人間はこんな言い草を鼻で笑うだろう、でもそんなことどうだっていい、やつらにはイメージの中で言葉を紡ぐことなど出来はしない、知りたかったことを知ろうとしなくなったことで俺はそれを手に入れた、人間の本質は思考に縛られはしない、思考は補佐に過ぎない、思考に頼り過ぎると人間は感覚を忘れる、俺はそのバランスの取り方にほんの少し長けている…人間というものはそもそも、様々な作業を同時に行う生きものだ、それなのに表現においてはひとつに絞りたがる、フォーカスがきちんと合っている方がいいものだと考える、思考に頼り過ぎたせいだ、どんなことについても、人前でベラベラ喋れる方が利口そうで格好いい、そんな安直なものを権威にしてしまう、そしてなにひとつ証明することなどない―俺がしているのはそれとは真逆のことだ、余計な口をきく必要などない、なにかを上手くやる必要などない、ただ、自分がするべきことだけをすればいい、そんな姿勢をどこに向けて叫ぶ必要もない、本来そうしたものが表現の実態ではないのか?満たすべき器を満たすことなく唾ばかり飛ばしているなんてひどい体たらくだ、自分が何の為にそれをしているのか、いつでもそれを理解して余計なことに気をやらなければそんなに難しいことでは無い、まあ、簡単なことでもないけどね、俺だって横道にそれることはある、下らない揉め事に首を突っ込んでしまうことだってあるさ、どんな境遇でも同じことさ、常に自分の中で蠢いている得体の知れない生物のことを感じているだけでいい、そいつとは話が出来ない、でも、気にかけてやっていれば拒絶されたりするようなことはない、なんたって求めているものは同じなんだから…わかるかな、つまり、書くということはそいつの中にあるものを自分が使っている言葉で語るということなんだ、だから、こちらがあまり考え込んでしまうと、そいつも自分の中にあるものを差し出すことが難しくなってしまう、折角良いものに触れているにも関わらず、考え過ぎたせいで変換の仕方を誤ってしまう、そういうことが起こるのさ、こうしようと思い過ぎないことだ、それは、正しく流れている水の道筋を無理矢理に捻じ曲げるようなものだ、こちらでどうこうしようなんて考えちゃいけない、水の流れる先を見つめ、そこからどんなものを受け取るのか待っていればいい、それは次々と現れる、言葉にするべきものもあるしないものもある、それだけ見極めることが出来ていればあとは勝手に出来上がっていくというものさ、変な色気なんか出さないことだ、それは余計な言葉を作ってしまう、ただただあるがままに、向かう道の中で見えるものすべてを言葉に変えればいい、もっともその景色に近い言葉を瞬時に選択するのさ、整合性だの辻褄だの矛盾だの気にする必要はない、人間の存在に整合性は無い、辻褄など合っていないし矛盾など当り前に生じる、わかるだろ?身に覚えがあるだろう?今お前が必死になっているのはもしかしたら、それを知っているからかもしれないぜ、その記憶がお前を躍起にさせるのさ、無茶苦茶だからこだわり続けてしまう、荒れた地平に新しい道を作りたくなる、でもそんな思いにとらわれてしまってはいけない、それは逆効果だ、思いは様々にあっていい、でも、あまり感情任せにしないことだ…俺も昔はそんな書き方をしていた、言葉とは感情でなければならないと考えていた、でもそうじゃなかった、本当はそうじゃなかったんだよ、それはまるで自分とは関係ない言葉でもよかった、その時その瞬間に浮かんできたものだけが真実なんだ、真実など定型ではないから、束の間のそれを引っ掴んで連れてくるのさ、わかるかい、真実とは空気さ、瞬間の空気の中で呼吸することさ、その中で蠢いている信号を次々に変換して、お前がいまこの時に生きている証拠をテーブルに並べるんだ、小細工は必要無い、小細工など何の役にも立たない、小細工が表現に成り得たことなど過去に無かったし、これから先も無い、いや、もしかしたらテレビジョンの中にはそういうものもたくさんあるのかもしれないね、表現ぶった娯楽ってやつがさ…数字を集めるだけで得意になれるなんてお気楽な連中だよな、同じことが続くぜ、同じことの繰り返しだよ、でもひとつ作り上げる度に、パラレルワールドを少しずつ移動していくみたいに、ほんの少し何かが変わっているんだ、朧気にそのことを感じながら、また最初のフレーズから書き出せばいい、すべてはそこにある、いったいそれ以上どんな言葉が必要だっていうのかね?まあ、こんなこと並べたところで色々な人間が色々なことを言うんだろうけど、気になるんなら後をついてくるがいいよ、俺の言っていることが少しずつわかって来るだろう…説明なんかしないよ、これより上手く話す方法なんて俺にはまったく思いつかないからね…。



自由詩 coincidentia oppositorum Copyright ホロウ・シカエルボク 2024-12-25 21:42:03
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