せめてきみの歯くらい人間であれ
菊西 夕座
歯がはえて、歯たちがきれいにそろったら
きみはもう、はたちをむかえたおとなです
居ならんで、自他がひとつに緊密し
糧をえる、顎の砦を築くのです
歯のひとつ、それがきみの立場でも
べつの歯と、連動しながら生きるのです
根のはえた、きみの居場所は固定され
それでいて、ちからは上下におよぶのです
暴風が、ふきつけるときには顎をはり
身をよせて、スクラム組んでは楯となり
自他もなく、食いしばるのが人間で
きみの歯が、ぬけおちようと気にしまい
風がやみ、晴れわたる空いちめんに
きみひとり、こらえた歌がひびいたら
きみは知る、どの歯もみんなきみとして
他のひとが、きみをうたってくれたこと