樹の影に
リリー

 軒端に訪れた冬が
 なつかしくて
 昔の男に逢ってみる

 樹の影の床几に
 ひそやかに日が暮れかけて
 眉の濃い青年だった
 あなたが盃をかたむけている

 湯豆腐のなべから上る
 湯気のむこうに
 確かにあなたはいるのだろうか
 幾度も目を見開いてみた

 その人も 私も 
 まわりの木々も
 それらを映す池の水までも、
 湯豆腐の舌にくずれる一瞬の様な
 はかなさがあった

  散りかけの葉に
  無情な風のざわめきは寄せて引き
  日暮れに沈んで行くのを見詰める私に
  あなたが盃をさした

 背を見せて去りゆく人を
 見送った車窓に
 急に溢れてくる涙

 あの青春の終わり方は、
 実は間違っていたのではないだろうか

 


自由詩 樹の影に Copyright リリー 2024-12-16 15:34:28
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