【病棟日誌】 散歩道
レタス
松本さんが転室してきた
彼は対人恐怖症と潔癖症で他人とは話せないのだ
今朝散歩に行きませんか? と誘ったら
ダウンジャケットを着込み
無言で頷きにっこり笑顔で眼を見開いた
病院近くの土手を歩き
水面に浮かぶ鴨の数を指差し数えた
ぼくは鴨南蛮そばが食べたくなったと言うと
彼は自分を指差しにっこり笑った
帰り道に彼は私の手を握り
暖かいと振り絞るように声を発した
彼の手のひらは少し冷たくしっとりとしていた
ぼくたちは子供のように手を繋ぎ病院に帰った
病室に帰ると満面の笑顔で
振り絞るようにありがとう!と声を振り絞った
明日もまた散歩にいきましょうと誘ったら
大きく頷いた