薬指が呼んでいる
りつ

バスの中でそっと外した薬指の指環
外しはしても 捨て去ることは
できなかった

外して間もないせいか
薬指が物足りない

薬指が泣き喚いていた


ねぇ、指環、してよ!
してよしてよシ! テ!   ヨォォォー!

しないしない絶対しない。もういいの。

バカじゃないの?本心じゃしたいくせに。嘲笑

馬鹿でいい。馬鹿になりたいの。もう晒さないでよ。

イイコちゃんになってりゃ世話ないわ。

………… 。

ねぇ、たまには素直になりなよ。

…………………。

あーあ、もうやってらんねー。

…………………………うるさい。

ハァ?

…………………うるさい…………うるさいうるさいうるさい煩い!
黙って聞いてりゃいい気になって!
あんたなんか喰いちぎってやる!
そんなに恋しいならどっかにお行き!


喰いちぎった薬指は
あっと言う間に“私”となり
高笑いしながら
軽やかに駆けていった





………と思ったら
薬指は嬉しそうに
スキップしながら帰ってきて
私の手に納まった

私は指環をゆっくり嵌めた

もう外さない
私は指環にくちづけをする


自由詩 薬指が呼んでいる Copyright りつ 2024-12-04 00:11:07
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