薬指が呼んでいる
りつ
バスの中でそっと外した薬指の指環
外しはしても 捨て去ることは
できなかった
外して間もないせいか
薬指が物足りない
薬指が泣き喚いていた
ねぇ、指環、してよ!
してよしてよシ! テ! ヨォォォー!
しないしない絶対しない。もういいの。
バカじゃないの?本心じゃしたいくせに。嘲笑
馬鹿でいい。馬鹿になりたいの。もう晒さないでよ。
イイコちゃんになってりゃ世話ないわ。
………… 。
ねぇ、たまには素直になりなよ。
…………………。
あーあ、もうやってらんねー。
…………………………うるさい。
ハァ?
…………………うるさい…………うるさいうるさいうるさい煩い!
黙って聞いてりゃいい気になって!
あんたなんか喰いちぎってやる!
そんなに恋しいならどっかにお行き!
喰いちぎった薬指は
あっと言う間に“私”となり
高笑いしながら
軽やかに駆けていった
………と思ったら
薬指は嬉しそうに
スキップしながら帰ってきて
私の手に納まった
私は指環をゆっくり嵌めた
もう外さない
私は指環にくちづけをする