泥炭地
ただのみきや
樹 死者へこぼす涙
残さずことばを散らし
ぬれて光る 生の裏地
知ることで目隠しされ
唇で唇を封じるように
傷口から遠く
白紙は音を吸い
飛び去ったかたことを匂わせた
( 瑠璃色のさえずり
静寂ははびこり
深く根を這わせ
わたしを吸い上げる
( 美醜をかぎわけなくていい
虚空の下げふりを避け
なにも乗せずに傾いた
天秤が歩きだす
こわれた心臓のリズム
ぼろ切れの影を引きずって
生きたままピンで留められた
ひとうねりの舌
それは歴史だと誰かが言った
煽情的脈動もパントマイム
見えない 聞こえない
ことばと踊る化石の舌
ここは見渡すかぎり泥炭地
わたしはひと盛の貝塚
草は枯れ
白紙にうもれ
永の眠りの深みから
夢の層まで浮き上がり
ことばになった夢を見る
とても良い
太陽に酔い
虫たちは飛び回る
蒼深き架空のふるさと
(2024年12月1日)