スターズ&ストライプス
カワグチタケシ

スターズ&ストライプス
片側四車線
湾岸エリアの中央分離帯の
縁石に座って
赤子をあやす若く美しい母親が
その手を離さないように

スターズ&ストライプス
マンホールの蓋の上で抱き合う少年少女
蓋は直径を支点に反転し
マンホールの底へ
地中深くへ
恋人たちが落下しないように

サラダデイズ
洗った葉にオイルをまとわせて
噛みしめる日々
繊維、油脂、酸、電解質、そして
香辛料が追いかける
大航海時代の収奪品

スターズ&ストライプス
女の子たちは両手を広げ
くるくる回転している
淡い鳶色の瞳が
午後の光を受けて金色に光る
そのふわふわの長い髪が
陳列棚や有刺鉄線に
絡みついたりしないように

指のさす先にあるもの
つまさきの先にあるもの
成熟とは戻ることのできない道
そして突然沈黙が訪れる
静寂のなかで蝋燭の燃える音だけが聞こえる

遊び疲れた僕たちはいつも
膝を折って
食器棚の引き出しの
スプーンのようになって眠った
閉じられた引き出しの内側の
暗さを知ることもなく
がんばった者もそうでない者も
正直な者もそうでない者も
同じ角度に
膝を折り曲げて眠った

窓ガラスから蜂蜜色の灯りが漏れている
誰かが歌をうたっている
歌い手は視線を上げ
声が天井に反響する
その姿が窓ガラスに映る
通りから声は聞こえない

ひさしぶりに集まった友だちは
思い思いの姿で
丘の上の草に座って
海を見下ろしている
さざなみに光が踊っている
潮騒は丘の上には届かない
木々の葉を通り抜ける風の音だけが聞こえる
みんな黙っている

狭くて両側に高い建築が並ぶ
日当たりの悪い通りを歩く
冬だというのに
夏の習慣から逃れられない

祈りの声が聞こえる
まだ真っ暗闇ではないが
じきにそうなる
それに気づいた者だけが
灯りを手に入れる
あたりがすっかり暗くなってからでも
手遅れということはない
祈りの声が聞こえる
声は段々遠くなる

 


自由詩 スターズ&ストライプス Copyright カワグチタケシ 2024-11-29 23:14:49
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