ある、朝
容子




目覚めましたらそれはそれは
パパもママも窓の外を歩く人も皆
片方の手に小さな人が絡み付いていまして
乳白色の柔らかそうな人が絡み付いていました

五月に入ったばかりだったのでしかたがないとも思いました

おはようと声を交わし
パパとママの手に視線向けてみてもなお
片方の手に小さなひとが絡み付いていまして
その表情はパパとママの人でそれぞれに違いました

優しいパパとママの顔とは違いうつろな顔で絡み
それはパパとママを映しているかのようでした


中学校三年生の頃だったと思います

隣りの席だった男は
授業中の友人との会話のさいに楽しそうに笑っていたのに
ふと見たノートの文字は乱雑に歪んでいて怒っているかのようでした
その日の朝男は進路のことで母親ともめてから登校したのだそうです

掃除中の雑巾がけをしていたさいに男は腰のポケットから落ちた
生徒手帳をとっさに拾い上げポケットへ入れ焦っているかのようでした
その手帳の中には男の好きな女生徒の写真が挟んであったのだそうです

手の方が正直な男だと思いました

隣りの席だった男は
授業中に数多くの種類の文字をノートの上に綴っていたので
その度わたしは彼の表情とその文字とを見比べていたのです

手の方が正直な男だと思いました



あの中学校三年生の頃を思い浮かべながら
目玉焼きの黄身を潰し
パパとママに絡み付く人を見ながら
牛乳など啜りついて
五月に入ったばかりだったのでしかたがないとも思いながら
わたしは寝ぼけ眼で朝食をとっていました




自由詩 ある、朝 Copyright 容子 2003-06-29 21:23:17
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