考える人
夏井椋也
考えるな 感じろ
と誰かが言ったが
背中で感じても指が動かない私は
ひたすら考える
詩人のような暮らしや
詩人のような風貌を
持ち合わせていない私は
ひたすら考える
語彙の小箱から摘み出した
偽善のピースを握り締めながら
考える(耳の裏を掻いている猫)
感情の鍋から掬い上げた
独善の切れ端を頬張りながら
考える(噛み殺しきれない笑い)
常識の荒野から掘り出した
「言葉遊び」を蹴飛ばしながら
考える(奥歯に挟まった何か)
テレビの裏側から吸い上げた
「ありのまま」を持て余しながら
考える(南無阿弥陀仏)
考えて
考えて
何を考えていたか分からなくなった頃
ぽろりぽろりと
耳垢のように
詩の言葉が剥がれ落ちてくる
慌てて拾い集めながら
自分を呪わずにいられない
感じるな 考えろ
何の因果なんだろう
考えることが止められない