幸せの巣
栗栖真理亜

地下鉄の入り口付近
巣を作り羽根を休めるツバメの親子
親は子を巣の内側に入れ
自分は外側端っこの不安定な場所で
羽根を羽ばたかせ
必死に巣と子供達とを守っている
黒いつぶらな瞳を時折瞬きさせながら

この親も子も知る術もなかった
人間どもの起こそうとしている不穏な空気を
ただ、ただ、
家族を守る小さな幸せしか知らなかった
戦という病が人々を駆り立て
蔓延していることを

ツバメはまた来年もこの場所で
巣を作るのだろうか
人々が憎しみに蠢き澱みきった空気のなかで

また次の年にも
必死に愛する我が子を守るために
巣を作るだろう
ひたすらに目の前にある幸せだけを信じて


自由詩 幸せの巣 Copyright 栗栖真理亜 2024-11-02 22:51:00
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