点の、ゴボゴボ。
田中宏輔
あたしんちの横断歩道では
いつも
ナオミが
間違った文法で
ごろごろ寝っころがっています。
まわりでは
あたしたちのことを
レズだとか
イモだとか
好き言ってます。
はっきりいって
まわりはクズです。
クズなので
どんなこと言われたって平気だけど
ナオミは傷つきやすいみたいで
しょっちゅう
病んでます。
あたしたちふたりだけが世界だと
世界はあたしたちでいっぱいなのだけれど
世界は
あたしたちだけでできているんじゃなかった。
あたしは
自分が正しいと思ってるけれど
あたしの横で
いつか
車に轢かれるのを夢見ながら
幸せそうな顔で
寝っころがってるナオミのことを
すこし憎んだりもしています。
ジャガイモを選ばなければならなかったのに
トマト2個100円を選んでしまったのだった。
勘違いのアヒルだったってわけ?
静止画とまらない。
もはや、マッハの速さでも。
よくわからない春巻きはあたたかい。
あたしんちの横断歩道で
いつか
あたしも
間違った文法で
ごろごろ寝っころがったりするんだろうか?
死んだ父親にまた脇をコチョコチョされて目が覚める。
部屋はいまのぼくの部屋と似ているが
微妙に違うような感じで
エクトプラズムが壁や天井を覆っている。
明かりをつけると消えた。
スキンを買っておかないといけないな
って思っていたのだけれど
タカヒロが半年振りにメールをくれた。
携帯を水に落としてって
水って
どこの水かな。
携帯にスキンを被せてたら
よかったんだ
勃起した携帯は
フッキして
二つに折れた
空間が
ぎゃって叫んで
ねじれて
ちぢんで
ふくらんだ。
ぼくが23歳のとき
2歳下の子と付き合おうと思ったのだけれど
かわいい子だったのだけれど
彼のチンポコ
真ん中で折れてて
「なんで、チンポコ折れてるの?」
「ボッキしたときに
折ったら
そのまま
もとに戻らへんねん。」
その子は
恥ずかしいと思ったのか
ぼくとは
もう会われへんと言った。
「チンポコ折れてても
関係ないで。
顔がかわいいから
いっしょにいてくれたらいいだけやで。」
タカヒロの携帯も
スキンを被ったまま
ねじれて
ちぢんで
ふくらんだ。
その子のチンポコも
ねじれて
ちぢんで
ふくらんだ。
30歳くらいのとき
ちょっと年上のひとと出会って
ラブホにつれていかれて
乳首をつままれた
というより
きつくひねられた。
あまりの痛さに声が出た。
乳首は
あとになったら
かさぶたができてた。
「気持ちよくなるから、ガマンしろよな。」
って言われたのだけれど
涙が出た。
痛かっただけや。
「ごめんなさい。
痛いから、やめて。」
って
なんべん言っても
ギューってひねりつづけて
それでも
乳首は
ねじれて
ちぢんで
ふくらんだ。
気に入ったな
このフレーズ。
それにしても
乳首は
確実に大きくなっている。
「おれ、付き合うてるやつがいるねん。
3人で付き合わへんか?」
このひと、バカ?
って思った。
考えられなかった。
歯科技工士で
体育会系のひとだった。
なんで
歯科技工士が
体育会系か
ぜんぜんわからへんけど
ぼくの乳首は
あの痛みを覚えている。
タカヒロの勃起した携帯に被せるスキンを買いに
自転車に乗って
スーパーのような薬局に向かった。
具体的なもので量るしかないだろう。
オケ専て、かわいそうやわあ。
ヨボ専て、どう?
ヨボヨボ歩くから?
そう。
じゃあ
ヒョコ専とかさあ
ぺく専とかさあ
ぷぺこぽこぺこひけこぺこ専とかさあ
いくらでもあるじゃん。
だるじゅるげるぶべばべぼごお。
たすけて~!
だれか、ぼくの自転車、とめて~!
三代つづいて自転車なのよ。
だれか、ぼくの自転車、とめて~!
そして、最期には、自転車になって終わるっていうわけやね。
わだば、自転車になるぅ~!
不幸の扉。
扉自体が不幸なのか
扉を開く者が不幸なのか
それは
どっちでもいいんじゃない。
だって
入れ替わり立ち代わり
扉が人間になったり
人間が扉になったりしてるんだもん。
そうして
そのうちに
扉と人間の見分けもつかなくなって
たすけて~!
だれか、ぼくの自転車、とめて~!
三代つづいて自転車なのよ。
だれか、ぼくの自転車、とめて~!
そして、最期には、自転車になって終わるっていうわけやね。
わだば、自転車になるぅ~!
ユリイカの編集長が民主党の小沢で
詩はもう掲載しないという。
映像作品を掲載するという。
ページをめくると
枠のなかで
映像が流れている。
セイタカアワダチ草が風に揺れている。
電車が走っている。
阪急電車だった。
このあいだドライヴしてるときに
窓から、ちらっと見た景色の再現だった。
ぼくは詩の原稿を
編集長の小沢からつき返されて
とてもいやな思いをする。
疑似雨
雨に似せてつくられたもので
これによって
人々がカサを持って家を出るはめになるシロモノ。
このあいだ
彼女といっしょに映画館を食べて
食事を見に行った。
あらゆる言葉には首がある。
すべての言葉に首がある。
その首の後ろの皮をつかんで持ち上げてみせること。
まるで子猫のようにね。
言葉によっては
手が触れる前に、さっと逃げ去るものもあるし
喉のあたりをかるくさわってやったり
背中をやさしくなでてやると
言葉のほうから
こちらのほうに身を寄せてくるものもある。
まあ、しつけの問題ですけどね。
たすけて~!
だれか、ぼくの自転車、とめて~!
三代つづいて自転車なのよ。
だれか、ぼくの自転車、とめて~!
そして、最期には、自転車になって終わるっていうわけやね。
わだば、自転車になるぅ~!
このあいだ、すっごいエロイ夢を見た。
思い当たることなんて、なんにもなかったのに
こころって、不思議!
高校時代の柔道部の先輩にせまられたんだけど
その先輩は
じっさい
ぼくにせまってきたほうの先輩じゃなくて
「手をもんでくれ。」
って、ぼくに言って
ただ自分の手のひらを
一年生のぼくに
もませただけの先輩だったんだよね。
なぜかしら
ふたりっきりの部室で、笑。
先輩のゴッツイ手をもみながら
こんなに幸せなことってあるのかなって思った。
たぶん、ぼくの顔、真っ赤になってほてってたと思うよ。
だって、めっちゃくちゃカッチョイイ先輩だったんだもん。
3年生で、キャプテンで
いまで言うところの短髪ガチムチで
砲丸投げで近畿でいちばんだったかな。
その3年生の先輩はすぐにキャプテンをやめて
つぎにキャプテンになった2年生の先輩が
じっさいに、ぼくにせまってきた先輩で
いまから考えたら
その2年生の先輩も
すてきなひとだったなあ。
こたえちゃったらよかったかなあ。
社会の先生のデブにも
教員室に呼ばれて手を握られて
びっくりして逃げちゃったけど
いまから考えると
わかかったし、かわいいデブだったし。
もったいなかったかなあ、笑。
廊下に立たされる。
なんて経験は
いまの子たちには、ないんやろうなあ。
ぼくなんか、小学生のとき
クラスメイトのひとりが宿題を忘れたからっていうので
もう一回同じ宿題を出すバカ教師がいて
「なんでえ?
なんで
なんでえ?」
って言ったら
思いっきりビンタされて
耳がはれ上がった記憶があるけど
もちろん
ビンタなんてされたこともないんやろうなあ。
頭ぐりぐりとか
おでこガッツンとかもあった
両親が家に入れてくれない。
玄関から入ろうとしても
裏口から入ろうとしても
立ちふさがって
入れてくれようとしない。
ぼくは何度も
玄関と裏口を往復している。
あの妄想でいっぱいの隣の家の嫁のからっぽの頭を
わたしの蹄が踏みつぶしたいって言ってるわ。
はいと、いいえの前に、ダッチワイフ。
はいと、いいえの区別ができないのよ。
しょっちゅう、はいって言うべきときに、いいえと言うし
いいえと言うべきときに、はいって言っちゃうのよ。
まぎらわしいわ。
あの妄想でいっぱいの隣の家の嫁のからっぽの頭を踏みつぶしてやりたいわ。
蹄がうずうずしてるわ。
クロワッサンが好き。
とがりものつながりね。
「先生、だんだん身体が大きくなってる。
太ってきたね。」
太ったきたわ。
また90キロくらいになってるわよ。
きのうも、えいちゃんに言われたわ。
また、はじめて会うたときみたいにデブるんかって。
きょうも、たらふく食べて飲んだわ。
おおきに
ありがとさん。
吹きこぼれている。
たくさん入れすぎやから。
フィーバーやね。
ぼく、パチンコせえへんし、わからへん。
ライ麦パンのライの実が
歯と歯のあいだにはさまって
ここちよい。
はさまるのは、ここちよい。
はさむのも、ここちよいけれど。
欲しい本が1冊。
このあいだまでジュンク堂にあったのに
もう絶版。
いま、アマゾンで、10000円近くになってるのよ。
なんでや!
ああ
あの妄想でいっぱいの隣の家の嫁のからっぽの頭を踏みつぶしてやりたいわ。
はさむのよ。
蹄と地面で。
グシャッて踏みつぶしてやるわ。
容赦なしよ。
ほら、はいと、いいえは?
はいはい、どうどうよ。
なんで同時に言えないのよ。
はい、いいえって言えばいいのよ。
そしたら
その空っぽの頭を踏んづけてやれるのに
キーッ!
蒙古斑のように
肌の上でつるつるすべる
ツベルクリン
よくわからない春巻きはあたたかい。
明石の源氏も
廊下に立たされて
ジャガイモを選ばなければならなかったのだ。
教室は
先生の声に溺れて
じょじょに南下して行った。
台風のあとのきょうの京都は
午後は快晴だった
いつもそうしてくれる?
いつもって、毎日のことだけど。
そしたら、お百姓さんは困るかな、笑。
自転車で
空や建物の看板が映った水溜まりを
パシャンパシャンこわしながら
よくわからない春巻きはあたたかい。
ジャガイモを選ばなければならなかったのに
トマトの傷んだものが
2個で100円だったから
トマトを選んだのだった。
ジャガイモを選ばなければならなかったのに
傷んだトマトに齧りついて
ドボドボしるを落としたのだった。
もはや
ジャガイモを選ぶには遅く
傷んだトマトは
2個とも、ぼくの胃のなかにすべり落ちていったのだった。
廊下に立たされて
傷んだトマト2個100円が
どぼどぼ
ぼくを吐き出しているのだった。
ぼくのいとこの女の子は
いや、もうとっくに、40歳を過ぎてるから
オバハンか
彼女は小学校の先生だったのだけれど
ある日
狂っちゃって
生徒の頭を
バンバンなぐり出しちゃって
精神病院に入院したのだけれど
治ったり
また病気になったり
いそがしい。
ギリギリのところで
人間って生かされているような気がする。
廊下に立たされる。
そんな記憶はなかったのだけれど
ジャガイモを選ばなければならなかったのに
傷んだトマト2個100円を選んでしまったのだった。
トマトの味とか
匂いって
どこか精子に似ているような気がする。
しいてあげるとすれば
じゃなくって
ちょくでね。
ジャガイモって
子どものときには
きらいだった。
カレーのなかのジャガイモが憎かった。
カレーは、ひたすらタマネギが好きだったのだ。
ジャガイモもタマネギといっしょで
ぼくと同性だけど
ぼくの口との相性は悪かった。
精子がとまらない。
静止画とまらない。
もはや、マッハの速さでも。
ときには
本を手にもって
手を本にもたれて
動かしながら読んでもいいものだなあ。
動かされながら読まれてもいいものだなあ。
トンカツ買ってきて
パセリや刻んだキャベツが
ちょこっとついてた
トンカツのおかず250円が
トマトでじゅくじゅくのぼくの口を
ご飯で一杯にしたのだけれど
ジャガイモを選ばなければならなかったのに。
葉っぱは人気がなかった。
学生時代によく行ったザックバランで
みんなが最後まで手をださなかったサラダは
ひとり変わり者の徳寺が
「葉っぱは、おれが食うたろか?」
いっしょに若狭に行ったなあ。
いっしょに風呂入って
なんもなかったけど、笑。
ええやつやった。
風呂は小さかったから
ふたりずつ入って
「あつすけと、なんもなかったん?」
って
あとで
卯本に言われても
笑ってた。
カラカラとよく笑う横断歩道。
ふだんからバカばっかり言ってるやつだったから
大好きだった。
安心しろ。
つねに余所見しろ。
若狭には源氏も行ったっけ?
あれは明石だったっけ?
そだ!
須磨だった。
パウンドが書いてた
須磨の源氏って。
よくわからない春巻きはあたたかい。
だれかがノイズになっているよ。
マシーンが、こくりとうなずいた。
勘違いのアヒルだったってわけ?
具体的なもので量るしかないだろう。
本を手にすると本が手になる
病気が流行っていませんか?
病気屋やってませんか?
精子がとまらない。
静止画とまらない。
ヒロくんが
下鴨のぼくのアパートにきて
夜
寝るときに
これって言って
渡されたのが
ゴムみたいな黄色い耳栓2個
「イビキすごいから
この耳栓してくれへんかったら
寝れへんと思うし。」
ほんとにすごかったのだと思う。
寝てたら
ほんとにヒロくんのイビキで起きちゃって
で
じっさいに耳栓して寝ました。
四条河原町で、歩いてるひとたちの影を目で追いながら
なんてきれいなんやろうと思いながら
なんてきれいなんやろうと思っている自分がいるということと
なんてきれいなんやろうと思って歩いている人間って
いま、どれぐらいいるんやろうかなあって思った。
男の子も
女の子も
きれいな子はいっぱいいて
通り過ぎに
目がいっぱい合ったのだけれど
もう
そんな顔は
すぐに忘れてしまって
知っている顔
付き合っていた子の顔だけが
思い出された。
そうだ。
パウンドの『仮面』で
忘れられないかもしれない一行。
「きのうは、きょうよりもうつくしい。」
「おれ
北欧館で
おれみたいにかわいい子、見たことないって言われた。」
「広島のゲイ・サウナでな
エイジくん
いつでも、ただでいいよ
だからいつでも来てね
って言われた。」
「コンビニで
マンガ読んでたら
いかついニイちゃんが近寄ってきよったんや。
レジから見えへんように
ケツさわってきよってな。」
はあ、思い出します。
エイジくん。
なんで、きみのことばかり思い出すんやろうか。
ぼくのことは思い出されてるのかどうか
それは、ぜんぜんわからへんけど。
さっきの記述
「きょうは、きのうほどうつくしくはない。」
パウンドの詩句で
うろおぼえでした。
正確に引用します。
このはかない世界から、いかに苦渋にみちて
愛が去り、愛のよろこびが欺かれていくことか。
苦しみに変わらないものは何ひとつなく、
すべての今日の日はその昨日ほどに意味をもたない。
(『若きイギリス王のための哀歌』小野正和・岩原康夫訳)