山人

長いトンネルのような日々が
重く冷たい雫を垂らし、出口はまだ見えない
出来事が天井に蝙蝠のようにぶら下がり
時間は喜んで羽根を生やしひらひらと飛翔している
冷たい瞬間に、それぞれの私が居て
無機物のような眼球が泳ぐ
表情は糜爛して、収まるべきところに収まっていない
子供のような人々の会話が
粘着質のように至ることにこびりつき
それが既にそこに棲みつき始めた

だから
この時期になると海が見たいと思う
だって、海は広い
いつも海のようになりたいと思う
初冬の海は冷たくて空気を殴りつけ
岩礁に砕けては飛沫を上げ、空間を粉砕している
思考は名を捨て、ところかまわず細かく粉砕されて
憤りは海鳥が浚う

胸の奥の卵塊がうごきだすころ
秋は深まり、わたしはそうして
心なし何かを呻いている


自由詩Copyright 山人 2024-10-22 05:42:21
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