Season of Violence Author
おまる

島があった。日本では魚釣島と呼ばれている。荒涼たる海が広がっている。ざわめく、怒りやすい海であった。 ざわめいているのは海ばかりではない。この島をめぐって日本と中国は緊張をたかめていた。

火蓋を切ったのは中国だった。2010年9月に、一隻の漁船に扮した中国軍の船が、島の付近の日本領海を侵した。日本巡視船が警告を発して防衛にあたったところ、この中国軍の船は巡視船に突撃した。これは明らかな、中国の軍事的挑発であった。 東京都知事の石摩羅珍太郎はこれに我慢ならなかった。間もなく「中国は救いがたく邪だ。あの島は私が若い時から目掛けてきたのだから、当然私の、そして日本のものになるべき島だ」といって、島の購入を発表した。

日本人は、満腔の賛意を表した。あっという間に、石摩羅のもとに数十億の寄付金が集まった。そこで石摩羅は弱腰の日本政府を相手にしないことにした。「もう我慢できない。義援金(都への寄付金)もあることだし、3つの自治体が力を合わせるのだ」といって、勝手に島へ上陸することにした。
国家戦略担当相の前原誠司、周章狼狽の極みであった。ふだんから曲がった口をさらにゴニョゴニョさせながらいった。 「なにが”おれのシマ”だよ、あのキチガイめが!極道でも気取っているのか、、、いやあいつは極道よりも極道だ。なにせハッタリ稼業なんだから!」

しかしいくら前原が被害者ぶって糾弾しても、誰も彼のことなんか、はなから相手にしていないのであった。 石摩羅はこの一件以来、マスコミに引っ張りだこになって、ゴキゲンなのであった。 やれ「国民の国防意識を根底から揺るがせた」だの「中国とも戦争辞さず」だの、例の華々しい石摩羅節に愚民は酔いしれた。日本人の好む一種の向う見ずというのもあいまって、威勢のいいことこの上なし!日本一調子に乗っていたのである。

島めぐる争いはというと。 水面下のところで、戦いはだんだんヤバい、、、あまりにヤバいことになってきた。 ひと月も経った頃には、海には片時も静かな時は訪れず。 海上自衛隊と中国軍の巡視船、戦闘機、のみならず政治団体の活動家が乗り込んだ漁船、なんでもござれ。雑誌「丸」の読者垂涎の軍事パレード状態となった。

これを見て石摩羅、「おれのたった一度の会見で、こんな大変な事態を作り上げたのだ」とみずからヒロイズムに悦に入っていた。 「この国は右も馬鹿、左も馬鹿、そもそも無関心のその他大勢はもっと馬鹿。このくらいの花火を打ち上げんと、効き目がないだろう。ガハッ」

衆愚政党の民主党、もはやこの事態の収拾する手はなく、都が島を購買する前に「国有化」を発表した。
日本と中国の船が島に吸い寄せられてきた。その様子が、衛星からリアルタイム映像として送られてくる。石摩羅はじっと見ていた。 無数の船が、海に白い尾をえがいてぐるぐると渦を巻いていた。

その光景を目にすると石摩羅はワクワクして、日頃の退屈な気分は自然どこかへといってしまった。 石摩羅はその後も尚、都知事として旺盛にアジテーションをおこなった。いくども都知事選があったが、そのたびに圧勝した。石摩羅の家は栄え、人としての力の有り様を天下に示した。

尖閣諸島問題の災いがいよいよ大きくなってくると、ころ合いを見計らって石摩羅はマスコミを利用して 「また喚かなくっちゃあな」

「トキオ・ボーイ」というテレビ番組のホストを務め、政界・官界・財界問わずさまざま有名人を呼んで大いに国家の大計について語り合った。

「尖閣のことは起こるべくして起こったのです。尖閣に関しては私はかねてからこれらの島に関する領有権の問題を強く主張してきました。過去に魚釣島に灯台をたてようとしたら、日本の外務省から時期尚早との横槍が入り、話は立ち消えてしまった。外務省はどこの誰に気兼ねしてか、灯台を認めようとしなかった」

「その間、中国の潜水艦は沖縄の島島の間の海溝を無断で通過するという侵犯を敢えておこない。日本の出方を窺った。そのたびに日本は抗議するだけ。本来は警告の爆雷投下くらいはするべきだろうに。」

「この尖閣問題はさらに今後過熱化され、日本、アメリカ、中国三者の関わりを占う鍵となるに違いない。要はアメリカは本気で日米安保を発動してまで日本に協力して尖閣を守りえるのか?守らないのか?まあ、守るまい。」

マスコミにチヤホヤされてすっかり上機嫌になった石摩羅は、よせばいいのに島の国有化を祝う催しを開いた。雲霞の大群のごとく有象無象が集まった。 ベロベロに酔った石摩羅、こんなことをいった。

「ねえ、君。いまはね悪人の天下なのだよ。大臣も悪人なら巡査も悪人。国家の衰運を隠し通している官僚なんかは大悪党さ。 むろん都知事も悪人なんだから私なんか、この通りスバラシイ人気ですよ。 だから君も悪人になりなさい。」

「とにかく悪人の天下になったら石摩羅の天下も同じことだね。まったく痛快だ。」





アジアの岸辺で、嘴どもがピーチクパーチクと、、、

「たしかにおれ達は皆一様ににぎやかしだ。いやだからこそ、一度でいいからやってみてーんだ。どうにかして、この島を掌中に収めてみたい、、、かの地に立ってみたいものだと、心トキメかせて、いてもたってもいられない」

「日本人の野郎ども、また金でなんとかしようとしてやがる。駄目だな、下品な野郎どもだ!」

「おれらだって、島の近所じゃねーか」

「おう。台湾だなんて、見てみろ。島はつい目と鼻の先にあるっつーのに、なかなかちっとやそっとの容易なことでは島のお姿を拝めねえってのに」

「それができる男が一人いやがる」

「石摩羅のことか!」(といって嫉妬で声を震わす)

「おい見てみろ。どこぞの馬の骨かもわからんハリボテの船が闇夜に乗じて、あちらこちらから闖入しては一人心をときめかしてやがる。粋がりやがって」

「夜這いの決死隊だな、おい」

「けれども俺らが人のいないところを闇夜にうろうろとしても何の効果もない。せめてはマスコミの人たちに何ものかでもいってみようと拡声器で喚き散らしても連中、歯牙にもかけない」

「それでも懲りないのが俺らの取り柄よ」 (にぎやかしどもはそのあたりをさまよい、蠢いては、夜を明かし日を送る)
所詮は烏合の衆。大半はそのうち望めぬものならば無用にうろつき回るのもツマランと、思い返して来なくなった。

だが、これだけの騒動だ。ただそれだけで舞い上がってしまうお調子者はこのアジアにも当然いるわけで、そこからいきなり自分の天下を思い描く豪気な者も一人や二人ではあるまい。

そんな業深き奴が必ず浮かび上がってくるものだ。こういう連中が、どうして思いあきらめるどころか、やはり夜昼なく徘徊しているのであった。

「香港保釣行動委員会」の活動家である。

同業者からも「ああ、あれはしつこいよ」と鼻つまみにされている。すべて己の都合のいいように解釈するのだから呆れて屁がとまらない奴ら。

彼らは常々、世間から注目を浴びるような事件があれば、もうそれだけですかさず飛びつく人々だったので、尖閣諸島の話を聞いては行ってみたくて堪らず、飯を食うのも忘れて物思いにふけり、島の近場まで出掛けていってはうろつき回ったが一向に効目がなく、誰からも相手にされず、アジびらをばら撒いたり街頭演説したりとやってみたが芳しくなく、、、

「オウ、オウ、オウ!このままじゃ俺たち、世間の笑い物だぜ。こちとら遊びでやってんじゃない。この稼業は舐められちゃ、おしめーよ。こうなりゃあ、あのジジイの処へ直談判しに行くしかねーな。」

と奴さん、荒れ狂う海をかき分けて通いつづけて来た。そうして或る日、なんとか海上自衛隊の防御線をかいくぐって、日本への上陸に成功!

都庁へAPO無し突撃としゃれこんだ。

「石摩羅!出て来い!」

石摩羅「おいおい、ずいぶん馬鹿なのが騒いでいるな」

側近「社長(都知事)に会いたがってるみたいですよ。」

石摩羅「おい、よせ、この野郎!まったく。はぁ~この国は平和だね」

で、石摩羅「さっさとつまみ出せ」 、、となる。

ところがである。活動家が石摩羅を呼び出しているうちに、報道陣が駆けつけてきやがった。

「男一匹、魂の叫びは天にも通じ、岩をも砕く!石摩羅ぁ~!!」

マスゴミたちのカメラのフラッシュが、雷鳴のごとくであった。こうなると、石摩羅の芸人魂に火がついた。

「おい、面白そうじゃねーか!いっちょ、一芝居ぶってやろうか」と都庁からお出ましになった。

「やい、石摩羅、、、いや、石摩羅様。島をくれよ。な?この通りだよ」

「国有化しているから、あれはおれの自由にはならんからなぁ」

「く、、、後生だよ。そんなこというなよ。な?そんなら漢の土下座を見ろ」と奴さん、カエルの死体のごとくコンクリートに張り付いた。

石摩羅は、ピカピカの革靴で、そいつの頭を踏みつけてグリグリした。

「がはは、愉快愉快」

活動家は国に帰っても、さんざんだった。 あんなことをやらかしたんだから仕方なし、だ。総スカンを食らい、完全孤立。

でも、でも、でも、、、だ。 こやつの胸には何かがつっかえているままだ。この気持ち、誰にもわかりゃしなねぇだろ、、、 そう。 「どうしても諦めがつかない」というやつだ。

先の見えない日々。活動家は悶々としていた。

「はぁ~、この先、どうやって食っていけばいいんだ」

いっそ山本太郎みたいに、天皇陛下に手紙でも渡すかって、罰当たりなことを思いついたりもした。 マー無駄なあがきだ。

しかしあの島だって、ずっとこのままという訳にもいかない。また俺が輝ける日がやってくると、思い返して、当てにした。





石摩羅「あの島は、石摩羅が手塩にかけてきた島です。まあ日米関係が続く限り、あの島は安全ですので(笑)、この石摩羅めがどうこう口を出せるものではございませんが、しかし石摩羅があの島のことで功績をたてようと心血を注いできた想いをどうかお汲み取りくださいまして、石摩羅の申し上げることを一つ、どうかお聞き取り願いませんでしょうか?」

お上「今回の件(国有化の件)は、お前の功績ではなく、すべて行政が行ったことだろうが。あの島が安全云々というのは今の今までつい知りもしませず、わたしはてっきり、あの島をダシに、あんたが騒いでいるだけだと思っていたが」

石摩羅「そりゃ、わたしはエエカッコシイというので食ってますからナ」

お上「ぐ、、」

石摩羅「わたしももう齢が八十の上となりました。実をいえば、もうじき死にます。そこでこれだけは言っておきますがな、この世で大事なのは情や慈悲ではなく、WILLであり、POWERなのです。弱肉強食が掟なのであります。またそうしてこそ国体が栄えるというものなのです。たといあの島といえども、やはりどうしてもその同じ道を踏まねばならぬのであります。」

こうなると、いつもの石摩羅節は冴えわたっていく一方であった。

そんなことよりも、お上は石摩羅の「そりゃ、わたしはエエカッコシイというので食ってますからナ」という人をコケにしたフレーズが心に刺さり、いちじるしくプライドを傷つけていた。

お上「無礼だぞ。石摩羅!図に乗るな!」

石摩羅「いやいや。もとは陛下のお持物であろうとも、兎にも角にも、あの島は絶海の孤島。今はわたしが生きております限りは、このままでもよろしかろう。がわたしが死んだら、どうなさる?誰があの島を守れるのです?誰もおりますまい。」

石摩羅「ところで橋之下は、あの通り長い間、国に尽くしており、志も深く、島の問題についてもわたしと一味同心です。あなたも早くお心をお決めになって、石摩羅の後継者としてお定めになってはいかがですか」

目がテン。 お上(内心)「おい驚いたな、、、とんでもないことをいいやがった」

お上「いいえ、わたしは器ではなく、あんたですら持ちかねている状況なのに、橋之下なんぞ、、、うっかりあの男の本性も知らずに、あんたと代わった後(橋之下もあんたと同じ不届き者で)その本性を剥き出しに暴走してきた時に、ただもう後悔するばかりだろう。どんなに人気があろうとも、あの男が馬鹿じゃないことが確かめられない限り、そんな話はのめん」

石摩羅「よくぞ仰いました」といって感心した。

石摩羅「そこで、いったいあなたは、どのような志をもった人間を、わたしの後継者にお定めになろうとお考えでしょうか?大体、橋之下にしてもそれはそれは志の深い男ですが、、、」

お上「ふむ。別にたいして特別なことはいわんが、、、。橋之下にしても、志をたてているのは認めるが、まだ道半ば。彼がそれを全うするかどうか、わたしが一番見てみたいのはそこだ。もしそれを見届けることができたならば、彼を君の後釜にすえようではないか」

石摩羅「それはよいお考えです」
大阪という土地はオモロイ所である。べつに、コメディアン兼痴漢の横山ノックが知事だったことを茶化したいわけではない。 只只、とにかくオモロイことになってしまう、ということだ。そんな大阪の知事となり、市長となって、天下へ飛び出してきたのが、TVタレントの橋之下である。

なにがオモロイのかオモロクないのかっていうと、橋之下は全然オモロイ人ではなく、ルール、法律遵守の糞馬鹿真面目な弁護士だっちゅーことだ。それが「日本一、オモロイ男」という事になっているのだから、とにかく、世の中の人気というものは、だらしのない薄っぺらなもんだ。

石摩羅のもとに、橋之下が現れた。

賑やかしに、吉本興業のオモナイ芸人たちを引連れてきた。

それらの人々は、世界のナベアツだとかいってフザケていたり、ある者は藤井隆とかいって「股間の一部がホット!ホット!」と叫び、またある者は原西とかいうビンボー臭い奴で、そういう風に、もう全然面白くなく、どん滑りで、、、

「そろそろ島の話をしようよぜ!」という、ツッコミ待ちの状態になった。

石摩羅「つまみだせ」

石摩羅「橋之下さん、よくぞお出で下さった。わたしの命ももう今日明日とも知れないので、君をわたしの後継者にとお上に申したところ、橋之下さんの志をやり遂げるのを見らねば、と申された。あなたの辣腕さえあれば、1年もあれば今の大阪の問題は粗方片付いて、大阪都構想も実現しよう。さっさと志をやり遂げて、わたしの後継者になってほしい。そしたら、あの島も正式に大阪に編入してもかわまんから。約束しよう」

橋之下「それは良い」

石摩羅は中に入って、お上にその旨を伝えた。





あやうく忘れるところであったが、是非とも書いておこうと思う。

威張りん坊の都知事の影に、もう一人の小さな威張りん坊が、いる!
その名を犬瀬といった。

普段、石摩羅と一緒にいるときは、寡黙で、ペコペコしているこの男は、石摩羅がいなくなった途端、尊大極まりない態度に豹変するのであった。

都庁職員にたいして、モラハラ、パワハラ、やりたい放題。 そんなんだから、蔭では「チンパンジー」とか「毒入り小太閤」とか、そんな渾名が付いていたのである。

ある日のことである。

石摩羅「おい、犬瀬。そういえば、お前、ここに何しに来てるんだ?」

犬瀬「、、、都知事になりたいです」

石摩羅、これにはびっくり。 犬瀬が退室した後、「おい、聞いたか?"都知事になりたい"だとよ。あれはボウヤだよ。ガハハ」

そんな犬瀬、かねてより石摩羅お気に入りの橋之下が、気に食わないのであった。

記者から橋之下について聞かれて、こういった。

犬瀬「橋之下?あれは何か実績を作りましたかね?何にもしてないんじゃないの?人気だけじゃ、政治はできませんからね~」と、ジェラシー剥き出し発言を連発していた。

石摩羅「犬瀬、聞いたぞお前。橋之下のこと、嫌ってるんだってな?」

犬瀬「、、、、」

石摩羅「妬んでるんだろ?なあ?自分より人気者だからって、君。妬みは醜いよ」

犬瀬、唇をブルブルさせながら「、、、あんな奴には、負けません!」と啖呵を切った。

石摩羅ニヤリとした。「よくぞ言った!その気骨がどれほどのものか、俺に見せてみろ!今度、橋之下が都庁に来るから、おまえ、橋之下をシカトしろ!」

あくる日、橋之下が石摩羅と面談しに、都庁へやってきた。(前話参照) その帰りに、事件がおこった。

橋之下「ああ、犬瀬さん、お久しぶりです」

犬瀬は返事をしなかった。

橋之下「、、、?犬瀬さん、どうかされましたか?」

犬瀬はシカトを続けるのみであった。

橋之下「おい、なんだお前。感じ悪いぞ。いやしくも俺は府知事。あんたよりも役職は上だぞ。、、顔じゃないぞ、お前」

犬瀬「プイッ」と、顔をよそにむけたままであった。

「チンパンジーのくせに、、、。お前にそんな態度をとられたら、ワイ、、、!」

橋之下のスイッチが入ってしまった。 犬瀬の髪をグイっと鷲掴みにして、引っ張ると、都庁の廊下の壁にドンッドンッと烈しく叩きつけた。

犬瀬「おいっ、やめ」

橋之下、頭に血がのぼって訳がわからなくなっている。

犬瀬の頭をズズズッ、、、と数十メートル、壁に擦りつけながら進み、犬瀬がよろけて倒れそうになったところ、頭に狙いを定めてサッカーボールキックした。

犬瀬、失神。橋之下が完全勝利した。

陰で見ていた石摩羅「ああ、やっぱり犬瀬は駄目か。そのうちに潰すか」とつぶやいた。


自由詩 Season of Violence Author Copyright おまる 2024-10-15 12:28:49
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