安い靴下なんか買うもんじゃない
奥畑 梨奈枝
変異・流転・変化していく恐怖
やみくもにハンドルを切り視点をブラシ
目の前のスリルに先行きを無視する
死ぬ
動かせない事実
変わらない、ただ変わり続けること
生きる
来た道を引き返すことにはならない
どのみち濡れて帰る帰路
足跡には雪が降り積もる
中身のないペットボトル
部屋に敷き詰めた
うわごとが凍りついて
血を這う書類チラシ類が
紙魚みたいに粉を散らし
空いたまま塞がらない
安い靴下なんか買うもんじゃない
鬱血した心と個
集団し糾弾、救難信号
自棄のまま生きてきて
ふと立ち直ろうと思い立ったとき
やり直しの利かないような
保証も確証もない
信念ばかり
吹き飛ばそうとする風
中華料理屋の壁
不動産屋の看板
責める人のいない日に
これといった遊びもせずに
「権威に阿ってばかりの優しさが
優しさのはずがない
秩序なんてもういいんだ」
途方もなく歩きつくす
街路樹が何だったか
空が何色だったか
もう思い出せない
人の流れに逆らって
「お前を生きる価値が充分にある」
反抗と服従から自由になれ
人が死ぬことと去ること
区別をつけずにいた
結局わからないんじゃないかと
形式ばった白々しい坊主に
議論を吹っかけようってことじゃない