こどもの世界
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こどもの世界を、そんな綺麗なことばでもって
書いてくれるなと思ったのです
校門をくぐるとあるコンクリの池に
誰かがパンをどかどか投げて
何匹かの鯉のお腹が膨らんで
ぷうかぷうかと漂っている匂いを
いつまでも嗅いだ夏のおわり

校長先生が朝礼台に立って
泣きながら犯人さがしをしてみませんかと訴えた
次つぎ引ったてられる容疑者
怒り、失望、寛容
けれどそれが大人たちの好きな偽造品だと判っているから
しおらしいお辞儀ができるし
容疑された心たちはタイヤを積んだ山の支えである
太い裸木の投げおとす影を見つめていたことを
わたし達は解っているから
教室の塊に続く坂道で
骨を折った馬鹿ものを
皆でよってたかって蹴りつけるのです
わらいながら
退屈しながら
それを照らす月曜日の陽ざしの確かなことと較べれば
どんな疑ぐりもただの架空に近かった

それと不思議なおじさん
林の奥の掘っ立て小屋に住んでいるらしいおじさん
わたし達は逃げまどうおじさんの小屋にむらがり
生活の意義さえことごとく燃やすのです
あの温もりだけが大人に向かう苦しみからほんのひと時を解放する
口の中にどろりと赤い何かがあふれる
確かな味
確かな痛み
神さまからのおくりもの

そうするしかなかったのだから
諦めというものがなかった
ただ、耐えろ耐えろと愛が口さきでさまよう
世界を憎ったらしく思っていたものですから
あなたのうつくしいことば
それはわたし達をさらに激情させるだけでした

みんな綺麗な目をしていました
嘘まで純粋でした
だから何でもできた
本気で星にとどくと思って
一心に歌えたのです
かなしい映画を見せられながら
全員で手をつなぐたび
どこかに落ちたかみなり様とひとつになって一斉に笑えたのです
泣く暇なんてありゃしません
あまりにかなしすぎたから






自由詩 こどもの世界 Copyright soft_machine 2024-09-22 08:40:18
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