ことことことでん
そらの珊瑚
初めて訪れた街で
かわいい二両編成の電車に出会う
道路のいたるところに
その線路が巡らされているようで
はっと気づくと踏切の直前
一時停止しそこねる
運転する身としては
なかなかあなどれないやつだった
ミケランジェロの天井壁画のような
目にしみる青空と白い雲の下
赤いフィアット チンクエチェントはとことこ進む
ほんの少し潮の匂いがする風は
海は見えないけれど近いよって伝えては去っていく
ことでんはいざなう
ことでんにいざなわれる
ことこと走る黄色やピンクの琴電には
キャラクターの絵が描かれていて
あの遊園地にあったおさるの電車を思い出させた
ふるさとの東海道線の駅から4つめの駅で降り
こどもの頃家族で時々行った小さな遊園地の
一周ぐるっと走るおさるの電車
先頭には本物の猿がちょこんと座っていた
まるで自ら運転しているかのような
(実際猿はそう思っていたかもしれない)
凛々しい猿の後ろ姿を見ながら
よそいきの服の少女は小さな旅を楽しんだ
その猿も遊園地も今は失われたけれど
こうやって戻ってくることもある
出発駅は到着駅
おかえりなさい
いつかのわたし