理由
九十九空間
「あなたは 15歳の子供は こんな醜悪な場にふさわしくない
少なくともわたしはそれを知っている
もっと美しいものを受けるに値する」
(ヤマシタトモコ『違国日記』1巻)
僕は いま ここで 僕に必要な言葉を
受けられるとは限らない
僕は 僕に必要な言葉を知らない
あなたも
いま ここで 僕に必要な言葉を知らない
僕が小学校に行かなくなったとき
先生も お母さんも
僕が本当に必要としている言葉を
与えてはくれなかった
僕もそれを知らなかった
僕はまだ 一次方程式も解けない子どもで
そのようにある世界を
そのようにある世界だと
ぼんやり見つめ 見つめて 穴が開くほど見つめて 絶望していた
世界がそのようにあること
例えば
空が青く トウガラシが辛く
円の面積は半径×半径×円周率で求められるということは
ただそのように受け入れるしかないわけではない
世界にはそのようにある理由があり 僕の頭で理解できるのだと
分かったとき 僕は
僕は 本当に救われたと思った
それから
近くの自販機までコーラを買いに行った
なんでもない日差しが
まぶしくてうれしかった
*
――光は、
秒速30万kmで進みます。これは、1秒間で地球を7周半する速さです。一方、音は秒速340mほどです。音は光に比べれば非常にのろいので、雷はまず光って、それから鳴るのです。
では、なぜ光は秒速30万kmで進むのでしょうか。また、なぜ音は秒速340mほどなのでしょうか。誰がどうやって計測したのでしょうか。計測結果は、受け入れるしかないのでしょうか。
いいえ、実は、光速は「マクスウェル方程式」から導出することができるのです。これは非常に難解な数式なので、理解するのは大変かもしれません。しかし、大切なのは、光の速さは受け入れるしかない測定結果ではなく、私たちが計算し、理解できるものだ、ということです。
*
――光が、
まぶしいことがただ うれしかった
そして ただ眩しいだけではなく まぶしさに理由があること
光の成り立ちや 網膜の神経細胞から
僕のこのよろこびまで
世界はつながっていることが何よりもうれしかった
僕は いま ここで 僕に必要な言葉を
受けられるとは限らない
僕は 僕に必要な言葉を知らない
だからせめて
僕は 僕のために 語ろうと思った
詩を書こうと思った
いつか出会うあなたのために 詩を書こうと思った