SEAHORSE
湯 煙












 空からぶらさがる朝。眠りの残る背のかたさを気にしつつ、
  やや大きめの欠伸をすると、海面から降り注ぐ陽の光の眩しさに、おもわず、
   海藻に絡めた長い尾に力が入ってしまうのを少々疎ましく感じながら、ふくらむ腹を見る。
 




  腹がふくれているのは、妻との交尾によってできた、多くの卵を入れているためであり、
   孵るまで夫が守り続けている。妻はその間に海底へと向かい、
    険しい岩石や泥地に付着するベントス、付近を漂うネクトンを補食し続ける。
 




   妻は普段、ベントスやプランクトンを求め、穴に潜むものや、
    隙間に隠れたままでいるものまで補食するため、夫は心配になるが、
     背びれや胸びれを震わせ静観している。
      この頃の妻ははげしく交尾を迫るため、夫にとり辛い時期となる。
 




  妻との交尾や重くなる腹に落ち着かなくなると、岩礁近くの大きな藻場へと、
   夫は小刻みに体を震わせ生暖かい海をのんびり出掛けることにしている。
    藻場では互いの腹を見せあう者達で溢れ、褒めたり貶したり、賑やかに過ごす。





 藻場での一時を楽しんだ夫は、月の光が射しこむ帰り道をゆらゆらと進む中、
  腹に熱が帯び始めるのを感じると、その蠢く熱にうながされるようにして家路を急ぎつつ、
   生まれてくるものたちを妻と祝福する姿をひとり静かに想う。












自由詩 SEAHORSE Copyright  湯 煙 2024-09-04 02:17:41
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