瑠璃色の鱗

人魚の住む海底に
一枚の絵が落ちて来ました
それは人魚のいる瑠璃色の海と空
絵は溶けかけていましたが
人魚の心を打ちその絵を宝のように思いました

ある日人魚が海から顔を出すと
岸辺で絵を描いている青年がいました
きっとあの絵を描いた人間に違いない
人魚はそう思うと自分の大切なものを
青年にあげたいと思いました

人魚は瑠璃色の鱗をしていました
その鱗を一枚ずつ剥がしては
岸辺に届くよう波に乗せました
そして青年が鱗を拾うのを見届けると
胸の辺りがキュッとして
鼓動が大きくなるのを感じました

青年は毎日海にやって来たので
人魚は毎日鱗を剥がして青年に贈りました
鱗を剥がしたところは
グレーの地肌が剥き出しになって
海水が沁みましたが我慢しました

人魚の地肌が半分くらい見えるようになった頃
青年が描いていた絵を海に流しました
人魚はそれを追いかけて手に取ることができました
ところがその絵はどう見ても
海底に落ちて来た絵とは別人のもので
人魚の心を打つことは無かったのです

人魚はボロボロになった下半身を見つめました
悲しくなって海底でうずくまり眠りました
眠ったまま少しずつ浮いて
岸辺に打ち上げられ目覚めました

青年がギラギラとした目で人魚を見ていました
声をあげると何人もの人間が
人魚の周りにやって来ました
そして手を伸ばし人魚の鱗をすべて剥がしてしまったのです
ただの肉塊となった人魚は死んでしまいました

鱗は人間たちによってオークションで売られ
一部が海外へと渡りあるコレクターが所有しました

コレクター所有する美術館には人魚の鱗と
かつて人魚の心を掴んだ絵の作家が描いた
海の絵が展示されていました

どちらも瑠璃色で美しく人々の反響を呼び
常にセットで展示されるようになりました


自由詩 瑠璃色の鱗 Copyright  2024-08-28 19:00:05
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