「冷やし中華 終わりました」
本田憲嵩
「冷やし中華はじめました」、それは夏を大まかに括っていた、水色の一枚の暦のように、町中華の古びたガラス製の開き戸に貼られていた、その水色の張り紙を、店主のおっさんの手がゆっくりとひき剥がしてゆく、ぽっかりと透明な空白、夏の夢はこれで完全に欠落してしまった。「ラーメン」と書かれた、歩道沿いの赤い幟には黒いトンボが羽を休めていて、アスファルトの滑走路の上空をまるで飛行機のルーツのように飛び立ってゆく。ああ、もう秋なんだ。寂光。とても涼しい風。
自由詩
「冷やし中華 終わりました」
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本田憲嵩
2024-08-27 21:45:46
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