別鏡
ただのみきや
麒麟の影で琥珀を拾う
差し出す耳に
甘く崩れ
世界は暗転した
蝉の声を運ぶ蟻の群れ
記号になりかけの蜻蛉の群れ
懐中時計を開ける度
動き出す舞台
ことばを纏って輪廻を繰り返すものよ
燕は掌には住めず
少女は溶けて逃げ水となった
触れる前に滅ぶ
こころは一陣の風
実体もなく
死の隠語のパレードから
38万4400キロメートル離れ
白い背に
顔を埋め
額づく耳に
水のささやき
張られたイト
縫い留めるイト
ふるえるイト
唇と唇が遠く離れて咥えるイト
漲るイト イト イト
琥珀に眠る斑猫
疾駆する瑠璃色の走馬灯
片腕を失くした子供らの
夢の泥土に開かれた
大地に
露出した
麒麟の骨
たわむれる わたしは
乾いた風の幽霊
過去すら定着しない
開かれた本の前
自分の匂いを探している
大勢の中のひとり
(2024年8月25日)