向こう疵
秋葉竹
ちいさな漁港に眠っている
勇壮な漁船をみるのが好きだ
沖合を
綺麗な流線型の中型船が
波を裂きながら南へ進んでゆくのがみえる
本州から四国への近さを
想い知らされる景色だ
ふと昔船酔いで気分がわるくなった
短いけれど印象的な船旅を想い出す
おそらくは個室のひとがいて
それを知りながら羨ましがりもせずに
畳敷きの大きな空間に雑魚寝するひとたち
『階級』とはこういうものかと吉本隆明を
なぜだか想い出したのを憶えている
プロレタリアートって
なんだったっけ?
瀬戸大橋を車で渡るいまとなっては
だれも憶えていなくて
良いことなのだろう
ちいさな漁港に眠っている
勇壮な漁船をみるのが好きだ
夜の街に棲む私の目にはすこし
眩しいくらいに陽に焼けた世界だ
荒海に
あらがう小舟の向こう疵
いまは眠ってあすに備える