向こう疵
秋葉竹




 

ちいさな漁港に眠っている
勇壮な漁船をみるのが好きだ


沖合を
綺麗な流線型の中型船が
波を裂きながら南へ進んでゆくのがみえる

本州から四国への近さを
想い知らされる景色だ

ふと昔船酔いで気分がわるくなった
短いけれど印象的な船旅を想い出す

おそらくは個室のひとがいて
それを知りながら羨ましがりもせずに
畳敷きの大きな空間に雑魚寝するひとたち

『階級』とはこういうものかと吉本隆明を
なぜだか想い出したのを憶えている

プロレタリアートって
なんだったっけ?

瀬戸大橋を車で渡るいまとなっては
だれも憶えていなくて
良いことなのだろう


ちいさな漁港に眠っている
勇壮な漁船をみるのが好きだ

夜の街に棲む私の目にはすこし
眩しいくらいに陽に焼けた世界だ



荒海に
あらがう小舟の向こう疵
いまは眠ってあすに備える









自由詩 向こう疵 Copyright 秋葉竹 2024-08-25 04:20:50
notebook Home