Life In The Fast Lane
ちぇりこ。
今は廃校になってしまった小学校のグラウンドに
ぼくら男子児童は立たされていた
50m走のタイムを計るのだと
体育の大森先生は号砲のピストルを
真夏の空へ向けて構えていた
過疎化の進んだ小学校の児童は
年々減少の一途をたどっており
ぼくらクラスの男子児童は全員横一列
スタートラインに立たされていた
ぼくらの目の前には石灰の白いラインが
逃げ水の揺れる校庭を突き抜けて
夏草の生い茂る河川敷の土手を通り抜け
閉じたシャッターだらけの商店街を飛び越えて
赤錆を喰ってしまった単線の路線沿いに並行して
どこまでも どこまでも どこまでも
先は見えないゴールを目指して
(夏の始まりに生まれて
(夏の終わりに死んでしまう
(長い捕虫網を携えた
(汗臭いボウズ頭は
(日に灼けたランニングシャツのかたちで
(一心不乱に網を振り回す
大森先生はいつまで経っても
号砲を鳴らさないでいる
スタートラインに立たされたぼくらは
スタートできないでいる
次第にじれてきた河合が
早瀬が山本が落合が田村が
スタートライン上で地団駄を踏み始める
規則正しい静かな暴動が夏に生まれる
(ひ弱な少女が児童公園の
(銀杏の木の幹にしがみついて動かない
(やがて背中に薄っすら一筋の線が現れ
(羽化が始まる
はたして号砲は鳴らされなかった
スタートできないぼくらは
あの日の夏に取り残されたまま
どこにもゴールできないでいる