夏のはな
そらの珊瑚

暑い季節にはみな熱い手を持っているのに
それでもふと触れた手がひんやりとしていて
溶ける魔法を解かれた
永遠に溶けないやさしいこおり、みたいだった
つくつくぼうしが鳴き始めると
耳をそばだてて
終わりまで聴いてしまうのは
あれがいのちの歌だと知っているから
おしなべてだんだんに早送りされてくテンポ
かみさまがぜんまいのねじをはやめるかのように
夏のおわり
失ったもの、ばかりが
歌がおわるまでのほんのわずかな時間を
駆けていく

失った数だけ
もらっていた
ことに気づいたなんどめかの季節に

もう使われてないメールアドレスにむかって
文字をうちこむ
届かない祈りを届けるようなきもちで

送信
空にむかってはなたれる
たくさんの電波

つくつくぼうしがうたうのをやめると
そのときを待っていたかのように
いっせいにしぶきをあげた噴水は
枯れる魔法を解かれた
とうめいな夏のはな




自由詩 夏のはな Copyright そらの珊瑚 2024-08-21 13:02:42
notebook Home