夏のはな
そらの珊瑚
暑い季節にはみな熱い手を持っているのに
それでもふと触れた手がひんやりとしていて
溶ける魔法を解かれた
永遠に溶けないやさしいこおり、みたいだった
つくつくぼうしが鳴き始めると
耳をそばだてて
終わりまで聴いてしまうのは
あれがいのちの歌だと知っているから
おしなべてだんだんに早送りされてくテンポ
かみさまがぜんまいのねじをはやめるかのように
夏のおわり
失ったもの、ばかりが
歌がおわるまでのほんのわずかな時間を
駆けていく
失った数だけ
もらっていた
ことに気づいたなんどめかの季節に
もう使われてないメールアドレスにむかって
文字をうちこむ
届かない祈りを届けるようなきもちで
送信
空にむかってはなたれる
たくさんの電波
つくつくぼうしがうたうのをやめると
そのときを待っていたかのように
いっせいにしぶきをあげた噴水は
枯れる魔法を解かれた
とうめいな夏のはな