Parasitic 【P】
ホロウ・シカエルボク


色褪せ、解れ気味の痩せ細った卵巣に宿った鼓動は産まれる前から眉間に皺を寄せていた、それが俺、それが俺さ、俺の胸中は初めからポエジーに寄生されていた、やつは俺の視神経と血管の幾つかまで根を張り、俺の生まれを面倒なものに変えた、俺の右側が微かに歪んでいるのはそのせいさ、筋の無い舞台のような、決まりきった台詞と動作ばかりの毎日の中で、小学校に入る頃には俺は世俗的なものから乖離を始めていた、肉体はそこに置いたまま、魂はどこか余所にあった、だから違う言葉が必要だった、俺が言葉を綴る理由はただひとつ、俺自身が納得したいせいだ、俺はいつだって、当り前の日常というものを奇妙だと思う心を持って見つめていた、彼らの心にはポエジーが無かった、代わりになにか、新鮮な死体のようなものが隙間なく詰め込まれていた、まあ、彼らにしてみれば俺だけがおかしな人間に見えていただろうけどね、コンパスの針で爪の表面や歯を削りながら過ごす日々が続いた、若い頃にはその時の名残が爪に残されていたけどね、もうそんなものは見る影もない、人間の細胞は周期的にごっそり入れ替わっている、骨だってその例外ではない、奇妙なものを見つめながら生きていたら奇妙な病にかかり、長いこと薬を飲みつづけた、その時のものは完治したけれど、いまは違う名前の付いた病でまた薬を飲んでいる、どこかに落度があって、リテイクを命ぜられたような気分になる時があるよ、病院で問診を待っている時なんか、特にね、時間は多重人格者が見る夢のように、混濁して悍ましい姿を曝していた、いまだ俺はそれを救おうとは考えていない、徒労に終わりそうな気しかしないからさ、やつらはやって来て去るだけだ、それ以上を生み出そうと思ってみたってあんまり意味のないことさ、塵、塵、人生とは降り積もる塵を見つめているようなものだ、その中に時折、微かに光を放つものが混じっていることがある、それを見逃さないようにするかしないかっていう話なのさ、まるで砂金掘りだ、でも、錬金術じゃないだけマシかもね、人生が美しく、喜びに満ちているなんて信じない方がいい、そんな素敵な景色は軽薄なヒットチャートの中にしか存在しない、すべてを誤解して道を踏み外す前に、自分がどこに立っているのかしっかりと見届けておくことだ、人生とは降り積もる塵を見つめているようなものだ、それは間違いない、初めから手に入るもののことを考えていると気がふれてしまうよ、初めから何も持っていないことをまず知るべきさ、なにも持たない、なにも知らないことを自覚するからこそ人は自分が欲しいもののために躍起になるんじゃないか、そして手に入れたものを充分に検分して、その中に在るものを認識するんだ、きちんと理解しなければならない、初見の印象だけですべてを決めていたらそれ以上の情報はまるで無駄になってしまう、周囲に惑わされちゃ駄目だぜ、近頃は何でもすぐに答えが出ることが良しとされている、でもそんなもの凄く馬鹿馬鹿しいことさ、手に入れたものを充分に検分して認識するんだ、そうすることで初めてそいつは自分の血肉に溶け込んでいくんだ、ひとつひとつを時間をかけてゆっくりと理解して飲み込んでいくことだ、それが本来、成長と呼ばれるべきものだ、なにもかもあっさりと結論を出すやつらを見てみなよ、まったく進歩の無い、何年経っても同じことばかり言ってるような連中、彼らは一生成長することが無い、一生を同じ文脈の中で生きる、怖ろしい話だぜ、けれど、絶対数が多いのはいつだってそんな人間なんだ、ハリボテの真実に惑わされるなよ、大多数という安心の中で、馴れ合い、舐め合い、曖昧に生きるなんて愚の骨頂さ、ルーティンだけで食い潰される毎日になんかなんの価値も無いね、いや、俺はそのすべてを否定しているわけじゃない、そんな連中が居なければ社会というものは成り立たないんだ、ただそのイデオロギーを俺に背負わせようとしたって無駄だぜっていう話なのさ、もちろん、必要最小限の責任は負うけどね、必要最小限さ、上限が決まってる世界の中でドングリの背比べなんかしたくないんだ、たったひとりでいつまでも追いかけたいものがあるのさ、その結果野垂れ死にするような人生で終わったって、人生ゲームのコマみたいなものになるよりはずっとマシだってこと、ダイスを振れよ!知性と野性が喚きまくる最高の賭けをやろうじゃないか、俺は流動的な意識の塊になって、風のようにお前のところまで行って新しいフレーズを囁いてやりたいのさ、ロマンティックな話だって思うかい、誇大妄想狂の戯言みたいだって…だけど、いいかい、真のリアリズムってもんは、真のロマンティシズムの先にしかないもんなんだぜ、おや、笑っているね、くだらないことを言ってやがるって?ってことはあんたも一度はこんなことを突き詰めてみたことがあるんだろうね、無いってんならただの間抜けだけどね、ねえ、もしも俺の言ってることが理解出来るなら、あんたもきっとポエジーが身体の中でざわざわと蠢いているんだろうね…。



自由詩 Parasitic 【P】 Copyright ホロウ・シカエルボク 2024-08-20 21:41:02
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