点景
中田満帆



 電話は大人しい
 躾がいきとどいている
 なにせ調教師がいるから
 どんな粗相もしないでいる
 だれかが季節の花を奪ってゆく
 ここには警官がいない
 ここには給油所がない
 憶えたての歌は鶫よりも早い
 なしろ新車ですから
 音がちがいますよ
 気に入ったのは
 値段だ
 だれかがおれを呼ぶ
 呼ばれるということに期待する
 でも実はだれもいない
 ここから遠く去ったあなたがたへ
 おれは機動隊を仕向ける

 きれいに刈り取られたセイタカアワダチソウ
 立地条件のいい土地はもうない
 だれもない街で
 人身事故が起きる
 そっと手をふるように
 どっと血があふれる
 きみを知らないせいか、
 やけに貌がまぶしい
 陽に焼けたジャケットが
 クリンチとサミングで
 砕け散って
 まさかおれかとおもって、
 ふりかえるとそこはやはり無人で
 婦人警官のかげだけが
 高熱放射を受けて
 輝いていた。  


自由詩 点景 Copyright 中田満帆 2024-08-19 13:56:15
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