ニンゲン
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ルーペをこらせば針は意外とでこぼこしている
ざらつく空洞を液で充たした

 ニミリ

 十ミリ

 百ミリ もっと 震わせながら伸ばす

 ずる休み

保健室の時計はゆっくり回る
初めて服のすき間から
次のチャイム間の猶予
だれも知らない大人のにおい


   ・


バーボン二本とスコッチとジン
もう、真っ白な 子ども達と心あわせにはなれない
ほどよく凹んだサンダルつっかけ
本当はなれたかも知れなかった けれど、なれない

カウンターで離発着するてのひらの群に
久しぶりのふる舞い
小僧すがたの仏さま
あえなくグラスを空にする冷たい汗が

大切にするはずの約束を何重にも破る
フラスコとジンで漱ぐ
泡と同じ弾けかた


   ・


 成熟した人間と同じくらい

 私にも操れるって思わせてくれる

 命を持たないぬいぐるみが好き

 存在する世界がかけ離れるほどかわいい


   ・


罪名を考えるのに忙しい人の列の最後尾に
私は並んで歩いていた
まず煙にして冷え
与えかけて熱い
育もうとするたび壊す
何度転んでも転んでも立ちあがってまた転ぶ
喜びを知らないおもちゃ
昨日までそれなりに働き
明日を寝て過ごす

さっきすこしばかりのお金を引きだした
うつくしい酒のため
名前も知らない誰かと
游ぐ夜の街の幾つかで
ゆっくり閉めた扉から
キラキラ降ってくる硝子片

(おくれた意識も)

そのひとつづつに映しこまれ
気がつけばまた朝陽の先に立ちつくす
決してなれないものに憧れ続ける
信じあえた友に先だたれ
家という空白の檻に囚われ
楽しい夢の見かたを忘れては
かたい礫を吐く
命がいつ折りかえすのかもわからず
こっそりどうぶつの絵を描いてほほえむ


   ・


 カウンターの奥でキング牧師とマルコムXが並んで
 生きることを考えている
 チョークを握って賢治が咳をこらえている
 赤い酒はどうする

 自分に慣れたつもりで
 吐き気をこらえ
 ちらばる自分に自分が降りかかる様を


  ・


退屈に飽きない今のくり返し

そんな人でもいていいのだと いつか聞いた気もするが
真っ白ななにかが世界中にあふれていることが
愚かさの一部に過ぎないのだとしても
悲しいことや 苦しいことや 悔しいことの荒波が
幾度 幾度も うち寄せても

 にんじん 屋台 紙芝居

 焚書 ケンメリ ブッポウソウ

珍しく夕べの記憶が鮮明だ
早く夜になれよと目を覚ます





自由詩 ニンゲン Copyright soft_machine 2024-08-17 12:53:43
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