メロウさん
ちぇりこ。

何回目かの朝がすぎて
何回目かの夏がきた
朝から犬が吠えていて
朝から蝉が鳴いていた
犬は吠え終わったけど
蝉は決して鳴き止まなかった
メロウさんは屋根の上
柔らかく微笑んでいる
生ぬるい夏のけものが
端の方から空を割っていた
メロウさんは割れた空の修復をしていた
一すじの汗も垂らさずに
修復しているメロウさんの
長い髪の毛が一本一本解かれてゆく
解かれる端から髪の毛が
一本一本抜けてゆく
その長い髪の毛の行き着く先で
街は朝を迎える
街の人たちは皆
歪な背骨をしている
へんな格好で上を見あげたり
地面のそこを見下ろしたりしているので
街の人たちは皆
歪な背骨をしていた
失くしてゆくものに怯えながら
過ぎる夏の影を数えていた
そうして夏の朝を迎えた街の
明日に架ける橋は
時折の豪雨により流された
橋桁が河口近くまで
流されるのを確認してから
メロウさんは静かに微笑んでいた

何回目かの夏が終わる


自由詩 メロウさん Copyright ちぇりこ。 2024-08-13 14:54:50
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