薄氷の時代
ヒロセマコト

雪が降ってくる
どこまでも続きそうな猛暑の日

日々の熱を溜め込んだアスファルト
太陽で熱された屋根瓦の上で
小さな雪の結晶はあっけなく
蒸発して消えてしまう

しかしそれは少しずつ
草むらやあぜ道の上に積もりはじめ
ヒマワリの葉の上にいた小さなクモは
雪をかぶって眠りについた

少しずつ白く染まっていく景色の中
走り抜けていく二匹のイタチは
茶褐色から白毛に変わっていく
黒く濡れたまんまるな瞳

エアコンの室外機の唸り
操業する工場の振動
人のささやきもすべて途絶え
雪の終幕が世界を閉ざす

もっと早く気づいていれば
誰かのつぶやきも凍りついていく
音も光もなくした世界に
マイナスの熱だけが残った


自由詩 薄氷の時代 Copyright ヒロセマコト 2024-08-13 00:27:39
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