寒い夜
秋葉竹
「古く止まった時をいま動かしたい」
そんなことを云って
破天荒な人生を
とてもかっこよく生きたひとは
そろそろ
「落陽」なんてうたを
歌いはじめても
よいかもしれないね
オレンジ色の人生の黄昏を
すこし眩しそうにそれでも
なんとかみようとしている
みたいな憂愁のひび割れた声で。
夜は
いつだって寒い
真夏だって
寒くしないとダメなんだ
夜は
いつだって
寒くなければ
ダメなんだ
夜はいつだって雨が降る
満月の夜だって雨が降る
夜は
雨が降らなければ
ダメなんだ
そして
凍えてなければ
ダメなんだ
そして小声で
震えながら
泣きだす人生を振り返り
そして
夜は
そして
暗く
黒く
寒い
吐く息はすき透りながらも艶っぽく
それが私の
心の自由さをあがきながら重くしてしまう
みたいだから嫌だ
夜に吐く息は
みえないあたたかさの色の
白っぽいしあわせなのがよいね
夜に
こそ
生きられる
私は
そこでしか
息ができないんだ
海のそことか
地のそことか
あるいは宇宙の最果てとか
夜になると
白桃を食べたくなるんだ
口の周りを
甘露でベタベタにして
しゃぶり尽くすすこしいやらしいくらい
くちびるでもいいから
夜の栄養になるものなら
悲しみでもいいから。
夜は
いつだって
寒い。
いっしょうぶんの
カレンダーを
ゆっくりと
めくりたいな。
その寒さに
震えながら。
「あたたかい息で凍った夜をあたためたい」
そんなことを云って
孤独な人生を
とてもしずかに生きたひとは
そろそろ
「寒い夜」なんてうたを
歌いはじめても
よいかもしれないね
暗い青色の宇宙の成り立ちを
すこし寂しそうにそれでも
なんとかさがそうとしている
みたいな鉛色の正しさよりも純な声で。