夏の自由研究
soft_machine

藪の中の蜘蛛の巣に撒かれた水玉の数珠が
懐中電灯に煌めきを返す
片言な星座のものではない美しい生の声で
今にあなたもこうなってしまうよと

鯨の血管は軽トラックならゆっくりくぐり抜けられたという
全体を守るために解体にはひと工夫があっただろうか
宙吊りにされた骨格標本を見上げる
螺旋階段に立ちならぶ私たちはまるで魚の群のよう

プランターで育てられたから
口でも出来るかも知れないよ
種によっては或いはね
朝顔
向日葵
鳳仙花
自分が自分でなくなっていくのが判る

伯父さんと叔母さんの会話には
さり気なく暗号が埋められていて
ベルを切るタイミングで複雑な構文を編み出せ
足音を聞けば体調が推理できるとか
考えなくてはならないものが増えてきた

山の奥に妙な男が住んでいる小屋があるらしいので
私と友だちは観察し侵入し手当たり次第に破壊する
生活が旧時代と新時代を確かに結び合せていたものを
夏に与えられた数々の自由は
狂ったように笑いながら
覚えたての汚いことばを使いきる前に
何か叫びながら男が現れ棒を振るってきたので
私たちの頭の中の地図を真っ白にして逃げていた

捕まっていたら何をされただろうかと
最近になって気になる
彼はどこか遠い国で銃を撃っていたかも知れない
あの夏の彼と
今日の私の叫びがとても似ているのだ





自由詩 夏の自由研究 Copyright soft_machine 2024-08-05 05:45:16
notebook Home