しろく永い思い出
唐草フウ

この白い画面から
各々の人たちが夏の思い出に何色が入ってるかを見ている
あたりまえに過ごすこと 羨望で願望しかなかったこと
夏の思い出はすきじゃない

病棟へ出入りするぶ厚い自動ドアが、こどもであるわたしを吐き出す。
ひとりで緊張と退屈に向かう時間
ゲームもない時代。お金も持ってない、ポシェットにはポケットティッシュとおまもりの飴だけ、無防備な幼い体で待つ。あやとりしたり、椅子の上をゴロゴロする。
病院にはカベがあることを知る。
(きらい)

何十枚ものつらいメモ
とっておけばよかったかな
でもいつも「ごめんね」だったから言えなかった「さみしい」


海に囲まれてるのに海で泳ぐこともなく
花火はどこかで上がっていても夜空を見上げたことも記憶にない
お祭りの楽しさも、割った西瓜がおいしいものなのか、おとなになってもわからない
一緒に楽しむ人がいて、思い出ははじめて色づく

夏は白い部屋が続いて、ドアも白く、ずっと白い。
のーとも、てがみも、メモも、思い出も。
大量の鼻血がティッシュ箱を消費して それが固まり時間が経てば黒くなった。

いつもいつも、帰りを待っている
もうないと分かってても
白い箱の中でひとり、いつまでも待っている
そして夏の白い真夜中には、どこまでも湿らせながらそれがまとわってくる










自由詩 しろく永い思い出 Copyright 唐草フウ 2024-08-05 00:52:08
notebook Home